

地方創生におけるNFT活用は、デジタルアートの販売から、地域との関係を証明する会員証やデジタル住民票へと広がっています。
長野県で展開されている「信州エシカルプロジェクト」も、NFTを地域との継続的な関係づくりに活用する取り組みの一つです。
ただし、このプロジェクトはNFTから始まったものではありません。
出発点となったのは、鳥獣被害対策によって捕獲された鹿の皮が、十分に利用されず廃棄されているという地域課題です。
鹿皮を地域内で加工して革製品へ変え、さらにNFTを使って地域の店舗、観光、クラフト、食品、コミュニティをつなぐ。そこに、信州エシカルプロジェクトの特徴があります。
本記事では、未利用鹿皮の資源循環から、NFTによる地域パスポート「Groover_NFT」へ発展した経緯と、今後の可能性や課題を整理します。
信州エシカルプロジェクトとは
信州エシカルプロジェクトは、長野県千曲市の革工房「Groover Leather」を運営するグルーバーラインが、2022年3月に立ち上げた民間プロジェクトです。
鳥獣被害対策として捕獲された鹿を、食肉だけでなく皮まで有効に活用し、地域内で持続可能な産業循環をつくることを目指しています。
公開資料では、次のような地域連携が示されています。
- 長野市営ジビエ加工センターで鹿を食肉と皮に分ける
- 鹿皮を飯田市の株式会社メルセンでなめし加工する
- 千曲市のGroover Leatherが革製品として商品化する
- 鹿革製品やジビエ食品を通じてエシカル消費を広げる
捕獲、加工、製造、販売を長野県内でつなぎ、これまで十分に利用されてこなかった鹿皮を地域資源へ変える取り組みです。
なお、信州エシカルプロジェクトは、長野県や千曲市が直接運営する自治体事業ではありません。
地域事業者が中心となって展開する、民間主導のエシカル・地方創生プロジェクトです。
鳥獣被害の裏側にある未利用鹿皮の問題
鹿やイノシシによる農作物被害を抑えるため、全国各地で捕獲が行われています。
捕獲された個体の一部はジビエとして食肉利用されていますが、肉以外の皮や骨まで有効活用するには、回収、保管、加工、製品化、販売までをつなぐ体制が必要です。
特に鹿皮は、剥皮後の処理や塩蔵、運搬、なめし加工に手間と費用がかかります。
革として使用できる状態にするだけでは事業として成立せず、最終的な商品と販路まで確保しなければ継続的な活用につながりません。
そのため、鹿皮活用を環境活動だけで終わらせず、地域産業として経済的に循環させることが重要になります。
信州エシカルプロジェクトでは、捕獲された鹿の命を可能な限り無駄にせず、革製品や食品として地域経済へ戻す仕組みづくりを進めています。
鹿革活用からNFTへ発展した理由
鹿革製品を販売するだけでも、未利用資源の活用にはつながります。
しかし、商品を一度購入してもらうだけでは、購入者と地域との関係がそこで終わってしまう可能性があります。
そこで信州エシカルプロジェクトを基盤として、2024年に発表されたのが「Groover_NFT」です。
Groover_NFTは、NFTをデジタルアートとして所有するだけではなく、信州の店舗やサービスを利用できる「デジタル会員権」または「地域パスポート」として位置づけています。
NFT保有者が提携店舗を訪れ、地域商品を購入し、観光や体験を楽しみ、オンラインコミュニティにも参加する。
鹿革という一つの地域資源から始まった活動を、観光、飲食、宿泊、工芸、食品、地域コミュニティへ広げるための仕組みとしてNFTを取り入れています。
Groover_NFTとは
Groover_NFTは、ブロックチェーン上で保有者を確認できるNFTです。
専用サイトでは、単なるデジタル画像ではなく、次の三つの機能を持つデジタル会員権として説明されています。
- 地域パスポート:提携店舗でサービスや優待を利用する権利
- コミュニティ参加権:Discordの限定チャンネルや企画へ参加する権利
- 応援の証明:エシカルな地域活動を支援する仲間であることの証明
NFTの保有情報は、特定の事業者が管理する通常の会員データベースだけでなく、ブロックチェーン上でも確認できます。
保有者がNFTを保持している限り、対象となるサービスやコミュニティへの参加資格を証明できる仕組みです。
ただし、NFTは金融商品としての価値や将来的な価格上昇を保証するものではありません。
Groover_NFTの中心的な価値は、地域サービスの利用、限定コンテンツ、コミュニティ参加などの実用性にあります。
デジタルと現地をつなぐNFCキーホルダー
Groover_NFTの特徴の一つが、デジタルNFTと物理的なキーホルダーを組み合わせていることです。
NFTを取得した後、Discordで保有者認証を行うことで、NFT保有者向けのオリジナルキーホルダーを入手できる仕組みが案内されています。
キーホルダーにはNFCが組み込まれており、対応するスマートフォンを近づけることで、プロジェクトのWebサイトなどへアクセスできます。
また、提携店舗ではキーホルダーを提示することで、NFT保有者であることを店舗側へ分かりやすく伝えられます。
| 構成要素 | 主な役割 |
|---|---|
| NFT | デジタル会員権・保有資格の証明 |
| Discord | 保有者認証・コミュニティ・限定情報 |
| NFCキーホルダー | 実店舗で提示できる物理的な会員証 |
| シークレットEC | 保有者限定商品やコラボ商品の販売 |
| 提携店舗 | 割引・体験・商品の提供 |
デジタル上のNFTだけでは、店舗スタッフが保有状況を確認する際に手間がかかる場合があります。
物理的なキーホルダーを組み合わせることで、Web3に詳しくない店舗でも参加しやすくする設計です。
NFT取得から地域サービス利用までの流れ
公開されている情報を基に整理すると、利用の流れは次のようになります。
- OpenSeaなどからGroover_NFTを取得する
- Discordへ参加する
- ウォレットを接続してNFT保有者の認証を行う
- NFT保有者限定のチャンネルへ参加する
- NFCキーホルダーや限定ECの利用方法を確認する
- 提携店舗でNFTまたはキーホルダーを提示する
- 店舗ごとに設定されたサービスや優待を受ける
OpenSeaでNFTを取得する場合は、暗号資産ウォレットのMetaMaskや、購入に使用する暗号資産が必要です。
スマートフォン版OpenSeaアプリでは購入機能が制限される場合があるため、専用サイトではパソコンのブラウザ、またはMetaMaskアプリ内のブラウザからの利用が案内されています。
暗号資産やウォレットを扱う際は、シークレットリカバリーフレーズや秘密鍵を第三者へ教えないことが重要です。
提携店舗で利用できるサービス
2026年8月現在、エシカルNFTの専用サイトには、飲食、宿泊、工芸、ワイナリー、日本酒、鹿革、食品、観光体験など、幅広い分野の店舗や事業者が掲載されています。
| 分野 | 公開されているサービス例 |
|---|---|
| 鹿革・クラフト | 革製品の割引、限定商品、コラボ商品 |
| 飲食店・カフェ | 食事料金の割引、コーヒーや試食券の提供 |
| 宿泊 | 公式サイトからの予約に対する割引 |
| 日本酒・ワイン | 試飲、商品割引、購入特典 |
| 伝統工芸 | 藍染めやあんず染め体験の割引 |
| 地域産品 | リンゴジュースや鹿肉加工品などの提供 |
| ワークショップ | コインリングやレザークラフト体験の割引 |
例えば、Groover Leatherでは店頭商品の割引や限定商品の販売、飲食店では食事料金の割引やドリンクサービス、工房では染色体験の割引などが掲載されています。
亀清旅館、長野銘醸、更級花織工房、たてしなップルワイナリー、軽井沢鹿工房、奥信濃BUNZO、ARTYHUBなど、異なる業種の事業者が一つのNFTサービスに参加しています。
ただし、サービス内容は店舗の状況によって変更・終了する場合があります。
専用サイトにも、担当者が不在の場合はサービスを利用できない可能性があることや、事前確認を推奨する注意書きがあります。
エシカルNFTは一般的なデジタル住民票と何が違うのか
自治体のNFT活用では、NFT保有者を「デジタル住民」や「デジタル村民」と位置づける事例があります。
一方、エシカルNFTは、特定の一自治体に登録するデジタル住民票ではありません。
複数の地域事業者を横断し、店舗優待、観光体験、限定商品、オンラインコミュニティをつなぐ民間型の地域パスポートです。
| 項目 | 自治体のデジタル住民票NFT | エシカルNFT |
|---|---|---|
| 中心となる関係 | 特定自治体とNFT保有者 | 地域事業者とNFT保有者 |
| 主な運営主体 | 自治体・地域団体 | 民間事業者・地域ネットワーク |
| 地域範囲 | 一つの自治体が中心 | 信州の複数地域・複数業種 |
| 主な機能 | 交流、施設特典、地域施策への参加 | 店舗優待、限定EC、観光・体験、コミュニティ |
| 現地での確認 | アプリやNFT画面など | NFT画面またはNFCキーホルダー |
| 法的な住民票 | 該当しない | 該当しない |
自治体の行政区域に限定されず、異なる市町村や業種を一つの地域パスポートでつなげられる点が、エシカルNFTの特徴です。
DiscordとDAO型コミュニティ
専用サイトでは、NFT保有者がDiscordの限定チャンネルへ参加し、企画会議や投票へ関われる仕組みが案内されています。
NFTを持たない人も一般チャンネルへ参加できますが、保有者認証が必要な限定エリアにはNFT保有者だけが入れる設計です。
この仕組みにより、店舗からサービスを受けるだけでなく、地域の企画や新しい商品づくりに参加するコミュニティへの発展を目指しています。
ただし、公開情報からは、DAOの規約、投票方法、投票実績、採択された企画、コミュニティ資金の管理方法などは確認できません。
現段階では「Discordを活用したNFT保有者コミュニティを形成し、DAO型の企画参加を目指している」と捉えるのが適切です。
信州エシカルプロジェクトの特徴
1.現実の地域課題から始まっている
プロジェクトの出発点は、NFTの販売ではなく、鳥獣被害と未利用鹿皮という現実の地域課題です。
すでに存在する鹿革製品や地域事業者の活動に、NFTを追加している点が特徴です。
2.NFTに実店舗で使える機能がある
NFT保有者は、掲載されている提携店舗で割引や商品提供などを受けられます。
オンライン上の所有だけで終わらず、地域へ足を運ぶ理由をつくっています。
3.複数の市町村と業種を横断している
鹿革、飲食、宿泊、伝統工芸、ワイン、日本酒、食品、観光体験など、異なる業種を一つの地域パスポートへ集約しています。
自治体単位ではなく、事業者ネットワークを基盤に広域展開できる可能性があります。
4.デジタルと物理的な会員証を組み合わせている
NFCキーホルダーを用意することで、NFTを実店舗で利用する際の分かりにくさを補っています。
利用者と店舗の双方にとって、保有者であることを確認しやすくする工夫です。
今後の課題
暗号資産とウォレットの利用が難しい
OpenSeaでNFTを取得するには、暗号資産取引所、イーサリアム、MetaMaskなどを使用する必要があります。
Web3に詳しくない一般利用者にとっては、通常の会員登録や電子チケットよりも参加のハードルが高くなります。
クレジットカードや日本円で購入できる仕組み、ウォレットを意識せずに利用できる方式など、参加方法を簡略化することが課題です。
提携サービスの情報更新
店舗ごとに優待内容や利用条件が異なるため、営業時間、担当者、サービス内容、終了情報などを継続的に更新する必要があります。
利用者が現地を訪れてから「特典を使えなかった」という状況を防ぐには、事前確認の仕組みも重要です。
利用実績の可視化
公開情報からは、NFTの発行数、販売数、保有者数、店舗での利用回数、再訪率、地域内消費額などの詳しい実績を確認できません。
地方創生への効果を評価するためには、次のような指標が考えられます。
- NFTの発行数・保有者数
- Discordの参加者数・継続利用率
- 提携店舗での特典利用件数
- NFT保有者による地域訪問回数
- シークレットECの利用件数
- コラボ商品や新規企画の実績
- 鹿革製品や地域商品の販売への影響
DAOとしての運営方法
NFT保有者が企画や投票へ参加する場合は、誰が提案できるのか、どのように意思決定するのか、投票結果をどう実行するのかを明確にする必要があります。
コミュニティの規模や活動内容に合わせて、無理のない運営ルールを整えることが求められます。
地域パスポートとしての可能性
地域の店舗がそれぞれ個別に会員制度やアプリを導入すると、利用者は店舗ごとに登録しなければなりません。
エシカルNFTのように、一つのデジタル会員権を複数の店舗や地域で利用できれば、利用者は地域を横断して店舗、宿泊、工芸、食、観光を楽しめます。
事業者側にとっても、単独店舗だけでは接点を持てなかった顧客へ、地域ネットワーク全体から情報を届けられる可能性があります。
さらに、NFT保有者の同意を前提として、訪問、購入、体験、イベント参加などを記録できれば、地域への関与度に応じて特典を変える仕組みも考えられます。
将来的には、ふるさと住民登録制度、観光パスポート、地域ポイント、デジタルスタンプラリーなどと連携する余地もあります。
ただし、機能を増やすこと自体が目的にならないよう、利用者と地域事業者の双方にとって分かりやすく、継続できる仕組みにすることが重要です。
まとめ
信州エシカルプロジェクトは、鳥獣被害対策で捕獲された鹿の未利用皮を、地域内で加工し、革製品として活用することから始まりました。
長野市で処理された鹿皮を飯田市でなめし、千曲市で製品化することで、未利用資源を地域産業へつなげています。
その活動をデジタル分野へ拡張したのが、地域パスポート型の「Groover_NFT」です。
NFT、Discord、NFCキーホルダー、シークレットEC、提携店舗の優待を組み合わせ、エシカルな活動を支援する人と信州の事業者を継続的につなぐことを目指しています。
自治体が発行するデジタル住民票NFTとは異なり、複数の地域事業者を横断する民間主導の地域パスポートである点が特徴です。
一方で、NFT取得方法の難しさ、提携サービスの情報更新、利用実績の可視化、DAO型コミュニティの運営など、今後整理すべき課題もあります。
保有者数、地域訪問、店舗利用、商品購入、企画参加といった成果を継続的に示すことができれば、信州エシカルプロジェクトは、資源循環と観光、地域産業、Web3を横断する地方創生モデルへ発展する可能性があります。
English Summary
The Shinshu Ethical Project was launched in 2022 as a private-sector initiative to make better use of deerskin generated through wildlife-damage control in Nagano Prefecture.
The project connects local processing and manufacturing: deer is processed in Nagano City, the hides are tanned in Iida City, and Groover Leather in Chikuma City turns the leather into finished products.
In 2024, the initiative expanded into Web3 through Groover_NFT. The NFT is designed not merely as digital artwork but as a digital membership and regional passport.
Holders can access benefits at participating businesses, join holder-only Discord channels, use a private online store and obtain an NFC-enabled physical key holder that can be presented at local shops.
Unlike an NFT-based digital residency issued by a municipality, Groover_NFT is a privately operated, cross-regional network connecting restaurants, accommodation, crafts, local food, wineries and tourism experiences.
Future challenges include simplifying NFT acquisition, keeping benefit information current, publishing usage data and establishing transparent community-governance procedures.
参考・出典
- shinetsu.nft「エシカルNFT」
- shinetsu.nft「NFTの購入方法」
- Groover Leather「NFT+サービスによる変革が始まります!」
- PR TIMES「信州エシカルプロジェクトが持続可能な産業育成を目指し活動」
- OpenSea「Groover_NFT」
- 長野県版エシカル消費「Ethical Style Nagano」
※信州エシカルプロジェクトおよびGroover_NFTは、地域事業者を中心に展開されている民間プロジェクトであり、長野県や千曲市が直接運営する自治体事業ではありません。
※本記事で紹介するエシカルNFTの専用サイトは、Digital Era Pioneerを運営する信越メタバース推進協議会が運営・情報発信に関わっています。本記事では、2026年8月24日時点の公開情報を基に、取り組みの仕組みと現状を整理しています。

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