【地方創生×デジタル・後編】飯綱町の廃校IT拠点と人材育成―空き家・移住支援まで横断する地域戦略

AI×地方創生

前編では、長野県飯綱町が進める「ふるさと住民登録制度」と、楽天グループ、日本旅行などとの官民連携を紹介しました。

飯綱町の地方創生は、関係人口の創出だけにとどまりません。

閉校した小学校をIT拠点として再活用し、地域にデジタル関連企業や技術者を呼び込むとともに、子ども向けのAI・プログラミング教育も展開しています。

さらに、ARを活用したりんごの情報発信、集落支援員による空き家の発掘、移住者や新婚世帯への住宅関連補助など、産業、教育、農業、住まいを横断した施策を進めています。

後編では、飯綱町のデジタル人材育成と移住・空き家対策を中心に、地域施策をどのようにつないでいるのかを解説します。


廃校を地域拠点へ変えた「いいづなコネクトEAST」

飯綱町では、閉校した旧三水第二小学校を再活用し、複合交流施設「いいづなコネクトEAST」として運営しています。

地域の人口減少や学校統合によって生まれた廃校は、維持管理費が必要となる一方、教室、体育館、校庭、給食設備などを備えた地域資産でもあります。

飯綱町は校舎を取り壊すのではなく、企業活動、地域交流、食、学習などをつなぐ拠点として再生しました。

施設内には、IT関連拠点、飲食・加工関連施設、地域交流スペースなどが入り、町外企業や人材と地域住民が接点を持てる環境が整備されています。

廃校活用の意義

廃校活用は、古い建物を残すことだけが目的ではありません。

  • 遊休公共施設の有効活用
  • 町外企業や人材の受け入れ
  • 新しい雇用や働き方の創出
  • 地域住民との交流機会
  • 子ども向け教育プログラムの実施
  • 地域事業者による商品開発や販売

複数の目的を一つの施設に集約することで、単独の貸しオフィスとは異なる地域拠点として機能します。


TOPPANデジタルのIT拠点「ICT KŌBŌ IIZUNA」

いいづなコネクトEASTには、TOPPANグループのIT拠点「ICT KŌBŌ IIZUNA」が設置されています。

旧校舎の教室をリノベーションして活用するサテライトオフィスで、システム開発体制とデジタル人材の強化を目的としています。

同拠点は、TOPPANグループが展開する「ICT KŌBŌ」の最初の拠点として、2020年から活動しています。

都市部だけにエンジニアを集中させるのではなく、地方でもデジタル関連業務に従事できる環境を整え、多様な働き方や地域雇用につなげる取り組みです。

企業誘致だけではない地域との連携

地方へのIT拠点設置では、オフィスが存在するだけで地域との関係が生まれない場合があります。

飯綱町の事例では、旧小学校を地域交流施設として活用しているため、企業、子ども、学校、地域住民が接点を持ちやすい点が特徴です。

ICT KŌBŌ IIZUNAは、デジタル分野の開発や検証に加えて、地域のデジタル教育や人材育成にも関わっています。

企業誘致を雇用人数だけで評価せず、地域教育、技術移転、学校との連携などを含めて考える必要があります。


小学生がAIをつくる「いいづなデジタルキャンプ」

飯綱町では、小学校高学年を対象とした「いいづなデジタルキャンプ」を開催しています。

2025年度のプログラムでは、子どもたちがカレーの具材や動物の足跡を判定するAIを制作し、実際の活動に利用する内容が組まれました。

生成AIへ質問するだけではなく、画像を学習させ、判定結果を確認し、精度を改善する過程を体験します。

AIを使う側から仕組みを考える側へ

子ども向けAI教育では、特定のツールを操作できることだけが目的ではありません。

どのようなデータを学習させるかによって結果が変わることや、AIが常に正しく判断するとは限らないことを体験的に学ぶことが重要です。

地域の自然や食材を題材にすることで、AIを抽象的な技術ではなく、身近な課題を解決する道具として考えられます。

また、都市部の専門施設へ行かなければ高度なデジタル教育を受けられないという地域差を縮小する可能性もあります。


教育版Minecraftによるプログラミングとまちづくり

飯綱町は、教育版Minecraftを活用した「いいづなデジタルスクール」や「いいづなマイクラ部」も展開しています。

対象となる子どもたちは、仮想空間で建物やまちを制作しながら、プログラミング、デジタルものづくり、課題解決などを学びます。

2026年度のマイクラ部は、小学4年生から中学3年生を対象とし、主にオンラインで活動する内容として案内されています。

仮想空間の作品を3Dプリンターで現実へ

デジタルスクールでは、教育版Minecraftで作った作品データを3Dプリンターで出力する取り組みも行われました。

子どもたちは仮想空間でオブジェクトを設計し、3Dプリント後にバリ取りや色塗りを行い、実物の作品へ仕上げています。

画面上の制作だけで終わらず、デジタルデータが現実の物体になる過程まで学べる点が特徴です。

地域課題を考える教材としてのMinecraft

Minecraftは、自由に建築するゲームとしてだけでなく、未来の町、公共施設、観光地、防災、自然環境などを考える教材としても利用できます。

子どもたちが飯綱町の未来を仮想空間に表現すれば、プログラミング教育と地域学習を組み合わせられます。

作品を地域住民へ公開し、意見交換する仕組みまでつなげれば、子どもが地域づくりへ参加する機会にもなります。


ARを活用した飯綱町産りんごの情報発信

飯綱町産りんごについては、ARグラスやタブレットを利用した購買体験の実証も行われました。

この実証は飯綱町内ではなく、2024年11月6日から26日まで、横浜駅中央北改札内の「JRE MALL Cafe」で実施されたものです。

長野県が参画するWaaS共創コンソーシアムやJR東日本商事などが関わり、飯綱町産りんごの魅力発信、地域への誘客、商品の購買促進を検証しました。

品種診断はタブレットで実施

利用者はタブレット上のアンケートに回答し、自分の好みに合ったりんごの品種診断を受けました。

その後、ARグラスで展示棚の二次元コードを読み取り、りんごの味、品種の特徴、生産者などを紹介する動画を視聴しました。

つまり、ARグラスそのものが品種を自動判別したわけではありません。

タブレットによる好みの診断と、ARグラスによる商品情報の表示を組み合わせた実証です。

多品種の違いをデジタルで伝える

飯綱町では50品種を超えるりんごが栽培されています。

しかし、消費者が店頭で目にする品種は限られ、酸味、甘味、食感、加工適性などの違いも十分には知られていません。

ARや動画を活用すれば、紙の値札だけでは伝えにくい品種の特徴や、生産者の考えを視覚的に紹介できます。

一方、デジタル演出だけで販売が増えるとは限りません。実証では、体験前後の購買意欲、実際の購入、地域への関心などを検証することが重要です。


集落支援員による空き家の発掘

飯綱町は2026年7月、空き家利活用を促進するため、集落支援員を活用した取り組みを開始しました。

空き家対策では、所有者が空き家バンクへ登録した物件だけを扱っても、地域に存在する空き家の全体像を把握できません。

外から見れば使用されていない住宅でも、所有者、相続関係、家財、修繕費、地域との関係などの事情により、市場へ出てこない場合があります。

地域に詳しい人材を配置する意味

飯綱町は、町内の空き家事情や地域に精通した人を集落支援員として任命しています。

支援員自身の地域ネットワークを活用し、表面化していない空き家を把握し、利活用につなげることを目指しています。

  • 使用状況が分かりにくい住宅の把握
  • 所有者や地域住民との関係づくり
  • 空き家バンクなどへの登録支援
  • 移住希望者とのマッチング
  • 地域が必要とする活用方法の検討

ただし、空き家を発見しただけで移住住宅として利用できるわけではありません。

耐震性、修繕費、上下水道、接道、所有権、相続登記などを確認し、利用可能な状態へ整える必要があります。


最大100万円の移住支援は条件付き

飯綱町には、移住や住宅取得などを支援する複数の補助制度があります。

その中には最大100万円が交付される制度もありますが、「飯綱町へ移住すれば誰でも100万円を受け取れる」という内容ではありません。

UIJターン就業・創業移住支援

飯綱町のUIJターン就業・創業移住支援事業では、東京圏、愛知県、大阪府などから移住し、対象となる就業・創業等の要件を満たした人に対して、最大100万円を交付する制度があります。

対象地域、移住前の居住・通勤状況、就業先、勤務形態、申請期限などの条件があります。

単に住所を移しただけで交付される制度ではありません。

おかえりリフォーム補助金

2026年4月には、以前飯綱町に住んでいた人が町へ戻り、父母等が住む住宅を改修する場合に、最大100万円を補助する「おかえりリフォーム補助金」も創設されました。

町外からの新規移住だけでなく、町出身者のUターンや実家の活用を促す制度です。

既存住宅を再利用することで、新築費用の負担軽減と空き家化の防止を同時に進められる可能性があります。

中古住宅購入は最大50万円

飯綱町への移住・定住を目的として中古住宅と宅地を購入する場合には、購入費の一部を最大50万円まで補助する制度があります。

補助額は制度ごとに異なるため、すべての住宅購入に100万円が交付されるわけではありません。


新婚世帯の住宅費用を最大100万円補助

飯綱町は、新婚世帯の新生活に伴う住宅関連費用についても、条件に応じて最大100万円を補助しています。

対象となる主な費用は次のとおりです。

  • 住宅の取得費用
  • 賃貸住宅の家賃や敷金・礼金等
  • 住宅のリフォーム費用
  • 引越し費用

これは「結婚した人へ現金100万円を一律給付する制度」ではありません。

婚姻日、夫婦の年齢、所得、住所、対象経費、申請期間などの要件を満たした場合に、実際に発生した対象費用の範囲内で補助される制度です。

記事やSNSで紹介する場合は、「結婚すれば100万円」ではなく、「新婚世帯の住宅取得・賃貸・改修・引越し費用を条件付きで最大100万円補助」と表現する必要があります。


移住ランキング全国9位と2年連続の社会増

飯綱町は、宝島社「田舎暮らしの本」の「2026年版 住みたい田舎ベストランキング」において、人口1万人以上の町を対象とした「若者世代・単身者部門」で全国9位となりました。

この順位はすべての自治体を総合した全国9位ではなく、人口規模と部門が限定されたランキングです。

また飯綱町の公表によると、2025年度は転入者268人、転出者243人で、25人の転入超過となり、2年連続の社会増となりました。

人口全体の自然減を含めれば、社会増だけで人口減少が解決したとは限りません。

それでも、転出者より転入者が多い状態を2年続けたことは、移住・子育て・住宅政策などの効果を検証するうえで重要な動きです。


飯綱町の施策が持つ5つのつながり

地域資源・課題 取り組み 期待される効果
閉校した小学校 いいづなコネクトEAST 企業・人材・住民が交流する拠点
地方でのIT雇用 ICT KŌBŌ IIZUNA デジタル産業と多様な働き方
デジタル教育機会 AI・教育版Minecraft 地域の次世代人材育成
多品種のりんご AR・動画による情報発信 商品理解、購買、地域への関心
空き家と人口課題 集落支援員・移住補助 住宅流通、移住、Uターンの促進

飯綱町の特徴は、これらを完全に独立した事業として扱わず、施設、企業、教育、農業、暮らしをつなげようとしている点です。

IT企業の拠点が地域教育へ関わり、デジタル教育を受けた子どもが将来の地域産業を担い、空き家が移住者や起業家の住居・活動場所になるという循環が考えられます。


他自治体が参考にする際の注意点

廃校を改修するだけでは拠点にならない

建物を整備しても、入居企業、運営者、地域利用者、教育プログラムがなければ、維持費のかかる施設になる可能性があります。

改修前に、誰が利用し、誰が運営し、どのように収益や交流を生み出すのかを設計する必要があります。

イベントで終わらせない

AIキャンプやMinecraft講座は、単発イベントとしても実施できます。

しかし、地域の人材育成につなげるには、継続的な学習機会、指導者、機材、参加者の成長を確認する仕組みが必要です。

先端技術の導入自体を成果にしない

ARグラスを使用したことだけでは、農産物の販売促進や観光誘客の成果を判断できません。

体験者数、商品購入率、地域への関心、ECサイトへのアクセス、再購入などを検証する必要があります。

補助金後の定着を確認する

移住補助金は、移住時の経済的負担を減らす効果があります。

一方、移住後に仕事、住居、医療、教育、地域コミュニティなどの課題が解決されなければ、長期的な定住にはつながりません。

交付件数だけでなく、数年後の定着率や地域活動への参加状況も確認することが重要です。


まとめ

長野県飯綱町は、閉校した旧三水第二小学校を「いいづなコネクトEAST」として再活用し、企業活動、地域交流、教育をつなぐ拠点を形成しています。

施設内にはTOPPANグループの「ICT KŌBŌ IIZUNA」が設置され、地方でのIT開発やデジタル人材育成に取り組んでいます。

子ども向けには、画像判定AIを制作するデジタルキャンプや、教育版Minecraft、3Dプリンターを利用した学習機会が設けられています。

農産物PRでは、2024年に横浜駅で、タブレットによるりんごの好み診断と、ARグラスによる品種・生産者情報の表示を組み合わせた実証が行われました。

また、地域に詳しい集落支援員による空き家の発掘や、条件付きで最大100万円となる移住・住宅改修・新婚世帯向けの支援制度も展開されています。

飯綱町の地方創生は、一つの目立つ技術や補助金だけで成り立っているわけではありません。

関係人口、廃校活用、IT企業、子どもの教育、農産物、空き家、移住政策を組み合わせ、地域の持続性を高めようとしている点に特徴があります。

人口約1万人規模の自治体が官民連携によって複数の地域課題をつなぐ事例として、他自治体にとっても参考となる取り組みです。


English Summary

Iizuna Town in Nagano Prefecture is pursuing a cross-sector regional revitalization strategy that connects digital industry, education, agriculture, vacant-house utilization and migration support.

The former Samizu Daini Elementary School has been reused as Iizuna Connect EAST, a regional facility that includes ICT KŌBŌ IIZUNA, a digital development base operated by the TOPPAN Group.

The town also provides children with opportunities to learn about AI, programming, educational Minecraft and 3D printing.

In 2024, an experiment at Yokohama Station combined a tablet-based apple preference assessment with AR glasses that displayed information about Iizuna-grown apple varieties and producers.

Iizuna has also introduced vacant-house support personnel and several conditional housing and migration subsidies. Some programs provide up to one million yen, but eligibility requirements apply and the payments are not unconditional.

Iizuna’s main strength is its effort to connect existing public facilities, private-sector technology, local agriculture, education and housing policy rather than operating each initiative in isolation.


参考・出典

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