

自治体への問い合わせは、平日の開庁時間内に集中しやすく、住民にとっても職員にとっても負担となっています。
こうした課題に対し、AIを使って24時間365日の問い合わせ対応を実現する自治体が現れています。
茨城県日立市は、国民健康保険課への電話問い合わせにAIが自動で回答する実証事業を2026年6月に開始しました。
青森県では、県公式ウェブサイトに生成AIチャットボット「AIデジタルスタッフ」を導入し、2025年12月から運用しています。
両者は、どちらもAIによる24時間対応を目指した取り組みですが、日立市は「電話」、青森県は「ウェブサイト上のチャット」という違いがあります。
本記事では、日立市と青森県の事例から、自治体におけるAI問い合わせ対応の効果と課題を解説します。
日立市と青森県のAI問い合わせ対応
| 自治体 | 導入サービス | 対応方法 | 運用状況 |
|---|---|---|---|
| 茨城県日立市 | AI電話対応さくらさん | 電話による音声自動応答 | 2026年6月19日から実証 |
| 青森県 | AIデジタルスタッフ | 公式サイト上の生成AIチャット | 2025年12月1日から運用 |
日立市は、電話を利用する住民への対応をAI化しています。
青森県は、ウェブサイトを利用する県民等に対し、入力された質問へ生成AIが回答する仕組みを採用しています。
問い合わせ手段は異なりますが、開庁時間に限定されない行政サービスをつくるという方向性は共通しています。
日立市|国民健康保険の問い合わせにAI電話対応
日立市は2026年6月19日、デジタル技術による市民サービスの向上と職員業務の効率化を目的として、AIを活用した電話対応の実証事業を開始しました。
導入されたのは、株式会社ティファナ・ドットコムが提供する「AI電話対応さくらさん」です。
市民が専用電話番号へ電話をかけると、AIが音声を認識し、学習した情報に基づいて問い合わせへ回答します。
原則24時間365日対応
AI電話の対応時間は、原則として24時間365日です。
従来の電話窓口では、平日の開庁時間内に問い合わせる必要がありました。AI電話であれば、仕事や家庭の事情によって日中に電話できない人も、夜間や休日に制度や手続きについて確認できます。
ただし、すべての問い合わせをAIだけで完結できるわけではありません。
個人情報を含む内容や、AIでは回答できない質問については、国民健康保険課の職員へ転送されます。
職員への転送が可能なのは、平日の午前8時30分から午後5時15分までです。開庁時間外にAIで解決できなかった場合は、改めて開庁時間内に電話する必要があります。
対応する問い合わせ内容
日立市が公表している主な対応分野は次のとおりです。
- 国民健康保険
- 後期高齢者医療保険
- 国民年金
- 医療福祉費
- 各制度の内容
- 加入・脱退などの手続き方法
制度の概要や一般的な手続き方法など、定型的な問い合わせをAIが担当することで、職員が個別相談や判断を必要とする業務に集中しやすくなります。
年間約2万5,000件の電話対応が背景
サービス提供会社の導入事例によると、日立市の国民健康保険課には年間約2万5,000件の電話問い合わせがあります。
特に資格確認書や納入通知書が発送される6月から7月には、制度内容や納付方法などに関する問い合わせが集中するとされています。
電話対応中は職員の作業が中断されるため、問い合わせ件数が多い部署では、電話対応そのものが大きな業務負担になります。
AIが定型的な質問へ回答できれば、住民の待ち時間を減らしながら、職員の業務中断も抑えられる可能性があります。
現時点では実証事業
日立市の取り組みは、正式な恒久運用が決定した段階ではなく、2026年6月19日から「当面の間」実施する実証事業です。
実証では、AIによる電話対応の精度や、市民サービス、業務効率化への効果などが確認されます。
今後の継続や対象業務の拡大については、実証結果を踏まえて判断されると考えられます。
青森県|公式サイトに生成AIチャットボットを導入
青森県は2025年12月1日、県公式ウェブサイトで生成AIチャットボット「AIデジタルスタッフ」の運用を開始しました。
提供会社は株式会社ecbeingです。ChatGPTを基盤として開発されたシステムで、県のウェブサイトに掲載されている情報を読み込み、利用者の質問へ対話形式で回答します。
青森県では、2023年3月から従来型のAIチャットボットを運用していました。
今回が県として初めてのチャットボット導入というわけではなく、従来のシナリオ型チャットボットから、ウェブサイトの情報を活用して回答を生成する仕組みへ更新した事例です。
ウェブサイトの情報から回答を生成
従来のシナリオ型チャットボットでは、想定される質問と回答を職員があらかじめ登録する必要がありました。
制度やウェブサイトの内容が変更された場合には、ホームページとチャットボット用Q&Aの両方を更新しなければならず、二重管理が発生します。
「AIデジタルスタッフ」は、指定されたウェブサイトの情報を読み込み、利用者の質問に応じて回答を生成します。
そのため、県が公式ウェブサイトを最新の状態に保つことで、チャットボットの回答にも情報を反映しやすくなります。
地域特有の問い合わせにも対応
提供会社の公表資料によると、青森県のAIデジタルスタッフは、次のような問い合わせに利用されています。
- 大雪に伴う除雪情報
- 熊の出没や被害状況
- スキーなどのウインタースポーツ
- 観光情報
- 伝統工芸品
- 国スポ・障スポの競技会場やグッズ
回答の中から県公式サイトの関連ページへ案内することで、利用者が必要な情報を探しやすくなり、ウェブサイト内の回遊性向上にもつながっています。
災害情報を回答へ反映
災害発生時には、同じ内容の問い合わせが短時間に集中する可能性があります。
青森県の事例では、地震などの情報を公式ウェブサイトへ掲載すると、AIがその内容を回答に利用できる点が評価されています。
ただし、生成AIの回答だけを緊急情報の唯一の入手手段にすることは適切ではありません。
避難情報や防災情報については、県や市町村の防災ページ、防災メール、公式SNS、テレビ、ラジオなど、複数の情報源を確認する必要があります。
運用コスト7割強削減、利用件数は倍以上
株式会社ecbeingが公表した2025年度実績によると、青森県では新しいチャットボットへの切り替えによって、月間利用件数が従来の約1,600件から約3,700件へ増加しました。
また、従来は月額約22万円だった運用コストが月額5万円となり、7割強削減されたとしています。
| 項目 | 従来 | 導入後 |
|---|---|---|
| 月間利用件数 | 約1,600件 | 約3,700件 |
| 月額運用コスト | 約22万円 | 約5万円 |
| Q&A管理 | 職員による登録・更新 | ウェブサイト情報を活用 |
さらに、従来必要だったチャットボット用Q&Aの作成作業が不要になり、各部署への回答作成依頼や登録作業の負担も削減されたとされています。
これらの数値はサービス提供会社が公表した導入実績です。自治体が導入効果を比較する際には、利用件数だけでなく、回答精度、解決率、利用者満足度、職員の作業時間なども確認する必要があります。
電話AIと生成AIチャットの違い
| 比較項目 | 日立市 | 青森県 |
|---|---|---|
| 利用手段 | 電話 | ウェブチャット |
| 主な利用者 | 国民健康保険課への問い合わせ者 | 県公式サイトの利用者 |
| 対象範囲 | 保険・年金・医療福祉費など | 県公式サイトに掲載された幅広い情報 |
| AIで解決できない場合 | 開庁時間内に職員へ転送 | 関連する公式ページなどへ案内 |
| 運用状況 | 実証事業 | 本運用 |
電話AIは、パソコンやスマートフォンの操作に慣れていない人でも、通常の電話と同じ感覚で利用できます。
一方、生成AIチャットは、回答と関連ページを画面上で確認でき、複数の情報を比較しながら調べやすいという特徴があります。
自治体の問い合わせ対応では、どちらか一方に統一するのではなく、電話、ウェブ、有人窓口を組み合わせることが重要です。
自治体がAI問い合わせ対応を導入するメリット
24時間365日の問い合わせ窓口
AIを利用することで、夜間、休日、年末年始にも一般的な問い合わせへ回答できます。
開庁時間内に電話や来庁ができない住民にとって、行政情報へアクセスする選択肢が増えます。
職員の電話対応やQ&A管理を削減
手続き方法や必要書類、受付時間など、繰り返し寄せられる質問をAIが担当すれば、職員は個別判断や相談支援を必要とする業務へ時間を使えます。
また、青森県のように公式サイトの情報を回答へ活用できれば、ホームページとチャットボットを別々に更新する負担を軽減できます。
問い合わせデータを業務改善に活用
どのような質問が多いのか、どの情報で利用者が迷っているのかを分析すれば、ウェブサイトや通知文、手続き案内の改善につなげられます。
AIを問い合わせ対応の代替手段として使うだけでなく、住民の困り事を把握するデータ基盤として活用できる可能性があります。
導入時に注意すべき課題
AIが誤った回答をする可能性
生成AIや音声認識は、常に正しい回答を返すとは限りません。
日立市も、制度の例外事項や最新情報に対応できない場合、周辺環境や電波状況によって会話を正確に認識できない場合があると案内しています。
回答の根拠となる公式ページを提示し、重要な手続きでは職員へ確認できる導線を残す必要があります。
個人情報をAIに入力しない設計
保険、年金、福祉などの問い合わせには、個人情報や生活状況に関する内容が含まれることがあります。
AIが対応する一般的な制度案内と、職員が本人確認を行って対応する個別相談を明確に分けなければなりません。
日立市では、個人情報を含む内容などをAIの対応対象外とし、開庁時間内に職員へ転送する仕組みを採用しています。
AIだけに窓口を限定しない
高齢者、障害のある人、日本語を母語としない人など、利用者によって使いやすい問い合わせ手段は異なります。
AIの導入を理由に有人窓口を一律に縮小するのではなく、電話、チャット、メール、対面対応を組み合わせた設計が求められます。
公開情報を最新に保つ
ウェブサイトの情報を参照して回答するAIでは、元となる公式情報が古ければ、AIの回答も不正確になる可能性があります。
生成AIを導入して終わりにするのではなく、各部署が公式ページを継続的に更新する運用体制が必要です。
まとめ
日立市は、国民健康保険課への問い合わせにAIが音声で回答する実証事業を2026年6月から実施しています。
原則24時間365日利用でき、国民健康保険、後期高齢者医療、国民年金、医療福祉費などの制度や手続きについて案内します。
青森県は、県公式ウェブサイトの情報を利用して回答する生成AIチャットボット「AIデジタルスタッフ」を2025年12月から運用しています。
提供会社の公表資料では、月間利用件数の倍増、運用コストの7割強削減、Q&A作成負担の削減といった効果が報告されています。
両事例は、AIが職員を完全に置き換える取り組みではありません。
定型的な問い合わせをAIが24時間担当し、個人情報や個別判断を必要とする相談を職員へつなぐことで、住民の利便性と職員の業務効率を両立させる取り組みです。
今後の自治体DXでは、AIの導入数だけでなく、回答精度、自己解決率、住民満足度、職員の削減時間、有人対応への適切な引き継ぎまで検証することが重要になります。
English Summary
Hitachi City in Ibaraki Prefecture began a pilot project in June 2026 using an AI-powered telephone service for inquiries handled by its National Health Insurance Division.
The service is generally available 24 hours a day, 365 days a year. Questions involving personal information or matters that the AI cannot answer may be transferred to municipal staff during regular office hours.
Aomori Prefecture began operating the generative AI chatbot “AI Digital Staff” on its official website in December 2025. The system uses information published on the prefectural website to answer questions from residents and other users.
According to the service provider, monthly usage increased from approximately 1,600 to 3,700 cases, while operating costs were reduced by more than 70 percent.
These cases demonstrate how AI can handle routine inquiries around the clock while allowing government employees to focus on cases requiring personal verification, individual judgment or human support.
参考・出典
- 日立市「AIを活用した電話対応の実証事業を実施します」
- ティファナ・ドットコム「日立市 国民健康保険課への導入事例」
- 青森県「青森県AIチャットボットの運用を開始します」
- ecbeing「青森県庁に生成AIチャットボット AIデジタルスタッフを導入」

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