【行政AI×調達】デジタル庁が生成AIガイドライン第2.0版を公表―RAG・本番システム運用の標準ルール

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デジタル庁は2026年6月12日、「行政の進化と革新のための生成AIの調達・利活用に係るガイドライン(第2.0版)」を策定しました。

今回の改定で重要なのは、行政における生成AI利用を、職員が文章作成や要約に使う単独のチャットツールだけでなく、生成AIを構成要素とする政府情報システムの企画、調達、開発、運用まで含めて整理した点です。

ガイドラインでは、各府省庁にAI統括責任者(CAIO)を置き、生成AIシステムの導入状況を一元的に把握する体制を求めています。

さらに、高リスク判定、調達・契約チェック、RAGの参照権限、外部データやプラグインとの連携、インシデント対応など、本番システムで生成AIを利用するための具体的な管理項目が示されました。

一方、「生成AIを行政システムへ組み込むことが標準仕様になった」と断定するのは正確ではありません。

生成AIの搭載をすべての行政システムに義務づけたものではなく、安全管理と利活用促進を両立させるための政府共通ルールを整備したものです。

本記事では、第2.0版の内容と、国・地方自治体、行政システムを提供する事業者に与える影響を整理します。


生成AIガイドライン第2.0版とは

正式名称は、「行政の進化と革新のための生成AIの調達・利活用に係るガイドライン(第2.0版)」です。

2026年6月12日に開催された第23回デジタル社会推進会議幹事会で改定されました。

デジタル庁は2025年5月に初版を策定しており、AI技術の進展、政府内での利用拡大、AI法やAI基本計画、AI事業者ガイドラインの改定などを踏まえて第2.0版へ更新しました。

このガイドラインは、「デジタル社会推進標準ガイドライン群」の一つである「DS-920」に位置づけられています。

デジタル庁の公式ページでは、ドキュメントの位置づけを「Normative」としており、本文でも「規範として遵守するドキュメントの一つ」と明記されています。

項目 内容
正式名称 行政の進化と革新のための生成AIの調達・利活用に係るガイドライン
第2.0版
策定日 2026年6月12日
文書番号 DS-920
主な対象 国の政府機関・政府職員
地方自治体 必要に応じて参考にすることが期待される
目的 生成AIの利活用促進とリスク管理を一体的に進める

対象はチャットツールだけではない

第2.0版では、生成AIを構成要素とする「生成AIシステム」をガイドラインの対象としています。

そのため、職員がブラウザ上で利用する対話型生成AIだけでなく、次のようなシステムも対象になり得ます。

  • 行政文書の検索・要約システム
  • 庁内データを参照するRAG
  • 問い合わせ対応を支援する生成AI
  • 申請書や報告書の作成支援
  • 既存の政府情報システムへ追加するAI機能
  • 音声入力・音声出力を利用するAIシステム
  • 外部データベースやサービスと連携するAI
  • 行政サービスを案内する検索・要約システム

ガイドラインが掲げる目的には、「既存政府情報システムの生成AIを用いた機能や利便性向上」も含まれています。

これは、生成AIを単独の文章作成ツールとして扱うだけでなく、政府情報システムの機能として実装することまで想定していることを示しています。

ただし、生成AIをすべての政府情報システムへ組み込むよう義務づけているわけではありません。

各府省庁が業務上の必要性、効果、費用、リスクを評価した上で、導入の可否や方式を決定します。


政府は「低リスク業務から迅速に実装」へ

第2.0版では、各府省庁に対して生成AIの業務利用を積極的に検討する方針が示されています。

特に注目されるのが、内部管理系業務など、比較的リスクが低いと考えられる用途について「スピード感を持って実装を進める」とした点です。

これまで行政の生成AI利用では、情報漏えい、ハルシネーション、著作権、個人情報などのリスクが強調され、実証実験や限定的な利用にとどまる事例も少なくありませんでした。

第2.0版では、リスクを理由に一律に利用を止めるのではなく、用途ごとにリスクを評価し、低リスクの業務では実装を進める考え方が明確になっています。

一方、高リスクの可能性がある利用についても、全面的に禁止するのではありません。

適切なリスク軽減策と品質確保策を講じた上で、安全かつ効果的なAIプロジェクトとして実施できるよう、専門家による支援や助言を行います。


各府省庁にAI統括責任者「CAIO」を設置

ガイドラインでは、各府省庁にAI統括責任者「CAIO」を設置することを求めています。

CAIOは、各府省庁におけるAIガバナンスの司令塔です。

生成AIシステムの企画、行政データの取り扱い、調達、利用、運用、リスクケースへの対応などを一元的に把握します。

CAIOの主な役割

  • 府省庁内の生成AIシステムの把握
  • 生成AIの調達契約に関する確認
  • ユースケースごとのリスク評価
  • 高リスク案件の報告要否の決定
  • 情報セキュリティ部門との連携
  • 生成AI利用ルールの整備
  • 職員のAIリテラシー向上
  • リスクケースやインシデントへの対応

CAIOは、デジタル統括責任者または副デジタル統括責任者級の政府職員が担うことを想定しています。既存のデジタル統括責任者が兼任することも可能です。

さらに、各府省庁は生成AIシステムの運用・利活用状況を一覧化し、四半期に一度程度を目安として、先進的AI利活用アドバイザリーボードへ報告します。


高リスクかどうかを3つの軸で判定

第2.0版では、生成AIの利用が高リスクに該当する可能性を判断するため、「高リスク判定シート」が用意されています。

判定の主な軸は次の三つです。

リスク軸 確認内容
業務の性格 AIの誤りが国民の権利、安全、財産、法人の事業などへ重大な影響を及ぼすか
利用範囲 政府職員だけが使うのか、不特定多数の国民が利用するのか
人間による確認 AIの出力を職員が確認するのか、そのまま自動的に利用するのか

例えば、AIが作成したメールを政府職員が確認せず自動送信する仕組みは、高リスクの可能性がある例として示されています。

一方、利用者の条件に合う行政サービスを生成AIで検索・要約し、最終的に公式の手続ページへ誘導する仕組みは、職員や利用者による確認方法を含めた設計によって、低リスクと判断される例が示されています。

重要なのは、生成AIを使っているかどうかだけでなく、「何の業務に使うか」「誰が使うか」「人間が確認するか」でリスクを判断することです。


調達・契約チェックシートを整備

第2.0版では、生成AIシステムを調達する際の確認項目を整理した「調達チェックシート」と「契約チェックシート」が用意されています。

生成AIサービスを導入する場合、利用規約へ同意するだけのサービス、事業者と個別契約を締結するサービス、個別開発するシステムなど、複数の調達形態が考えられます。

ガイドラインでは、導入方式を主に次の三つに整理しています。

類型 導入方法
A 個別開発を行わず、定型約款や利用規約への同意でサービスを利用
B 個別開発を行わず、事業者と個別契約を締結
C 生成AIシステムを個別開発し、個別契約を締結

要機密情報を扱う場合や、独自の安全対策が必要な場合は、単純な約款型サービスではなく、個別契約や個別開発を検討する必要があります。

調達仕様書や契約書では、データの取り扱い、セキュリティ、出力の品質、説明可能性、ログ、インシデント対応、サービス終了時のデータ処理などを確認します。


RAG活用を前提とした安全管理

第2.0版では、RAGについても具体的な安全対策が示されています。

RAGとは、生成AIが外部のデータベースから関連情報を検索し、その情報を基に回答を生成する技術です。

行政機関が保有する法令、通知、マニュアル、議事録、FAQなどを生成AIに参照させることで、一般的な生成AIよりも行政業務に即した回答を生成できます。

一方、RAGへ要機密情報を登録する場合、利用者が本来閲覧できない文書までAIを通じて取得できてしまう危険があります。

ガイドラインでは、RAG用データとデータストアの参照権限を、ユーザーや役割に応じて適切に設定することを対策例として示しています。

RAGで必要になる主な対策

  • 利用者・役職ごとの参照権限設定
  • RAG用データストアへのアクセス制御
  • 入力プロンプトと外部参照データの明確な区分
  • 参照データに不正な指示が含まれていないかの検証
  • 出力へ機密情報が含まれていないかの確認
  • 回答の出典や根拠を確認できる設計
  • 間接プロンプトインジェクションへの対策

したがって、「庁内データをRAGで自由に使えるようになった」という意味ではありません。

RAGを利用する場合に必要な権限管理やセキュリティ対策が、政府調達の要求事項として具体化されたと捉えるのが正確です。


外部サービス・プラグイン連携にも対策

生成AIが業務システムへ組み込まれると、文書を生成するだけでなく、外部のデータベースやサービスを呼び出す機能が利用されるようになります。

第2.0版では、外部サービスを呼び出すプラグインやツールについても安全対策を求めています。

  • プラグインがアクセスする外部サービスやデータベースの制御
  • 導入前のプラグイン情報や構成要素の確認
  • 外部データに不正な指示が含まれていないかの検証
  • 必要のない外部サービスへのアクセス制限
  • 利用者の権限を超えた処理の防止

これは、生成AIが回答を作るだけの段階から、外部システムと接続して処理を行う段階へ進むことを想定したルールです。

今後、行政分野でAIエージェントの利用が広がる場合にも、こうした外部連携の権限管理が重要になります。


人間による判断は引き続き重要

ガイドラインは生成AIの積極利用を求める一方、AIに行政判断を全面的に任せることを推奨しているわけではありません。

生成AIの出力結果を政府職員が確認せずに利用する場合は、高リスクになる可能性があります。

特に、次のような業務では慎重な設計が必要です。

  • 給付、認定、許認可など国民の権利へ影響する業務
  • 生命、身体、財産に関係する業務
  • 法人の事業継続へ重大な影響を与える業務
  • 高い説明可能性が求められる行政判断
  • 不特定多数の国民が直接利用するサービス
  • AIの出力を人間が確認せず自動実行する業務

AIの出力をどこまで自動化し、どこから職員が確認するのかを、業務フローの中で明確にする必要があります。


運用開始後も監視と改善が必要

生成AIシステムは、導入時に安全性を確認すれば終わりではありません。

モデルの更新、参照データの変更、利用方法の変化、新しい攻撃手法などによって、リスクは運用中にも変化します。

第2.0版では、企画、調達、開発、提供、利用、インシデント対応まで、システムのライフサイクル全体を対象としています。

運用中には、次のような確認が必要です。

  • 出力の品質・正確性
  • ハルシネーションや不適切な出力
  • 利用者による異常な入力
  • アクセス権限の不備
  • 情報漏えいの兆候
  • 想定外のコスト増加
  • モデルやサービスの性能変化
  • インシデント発生時の停止・切り替え・復旧

生成AI導入は、システムを購入して終わる一時的なプロジェクトではなく、継続的な評価と改善を必要とする運用業務になります。


「行政AIの標準仕様になった」は正しいのか

第2.0版は、国の政府機関における生成AIの調達・利用ルールとして、規範的な位置づけを持っています。

その意味では、政府が生成AIシステムを導入する際の標準的なガバナンスと調達ルールが整備されたと評価できます。

一方、生成AIをすべての行政システムへ搭載することや、RAGを必ず導入することを定めた仕様書ではありません。

表現 評価
政府の生成AI調達・利用に関する標準ルールが整備された 適切
RAGを利用する場合の安全対策が具体化された 適切
生成AIを含む業務システムの本番運用を想定している 適切
すべての行政システムに生成AIを組み込むことが標準仕様になった 不正確
地方自治体にも一律に遵守義務がある 不正確

正確には、「生成AIを行政業務や政府情報システムへ実装する際の標準的な管理・調達ルールが整備された」と表現するのが適切です。


地方自治体への影響

第2.0版の主な対象は国の政府機関です。

独立行政法人や指定法人にはガイドラインに準拠した取り組みが期待され、地方公共団体については、必要に応じて参考にすることが期待されています。

地方自治体に直接の一律遵守義務が課されるわけではありません。

しかし、自治体が生成AIシステムを導入する際にも、次の項目は実務上の参考になります。

  • AIを統括する責任者と担当部署
  • 導入中の生成AIサービス一覧
  • 高リスク・低リスクの判定方法
  • 入力できる情報・できない情報の区分
  • RAGデータの参照権限
  • 職員による出力確認
  • 事業者との契約条件
  • ログの保存と監査
  • インシデント時の停止・報告手順
  • 運用開始後の品質評価

国の調達ルールが整備されることで、自治体のAI調達仕様書や生成AI利用ガイドラインにも、同様の考え方が反映される可能性があります。


行政向けAI事業者に求められる対応

行政機関へ生成AIサービスを提供する事業者にとっても、第2.0版は重要な文書です。

今後の行政AI調達では、生成精度や導入価格だけでなく、次の項目を説明できることが求められます。

  • 入力・出力データの保存と利用範囲
  • 行政データをAIモデルの学習へ利用するか
  • データの保存場所と削除方法
  • RAGのアクセス権限管理
  • 出力根拠・参照元の表示
  • ログと監査証跡
  • プロンプトインジェクション対策
  • 外部サービス・プラグインの接続先
  • モデル変更・サービス終了時の対応
  • インシデント発生時の報告・復旧体制
  • 費用対効果を検証するための利用データ

単に「生成AIを利用できます」と説明するだけでは、行政調達に対応しにくくなります。

安全管理、契約、運用、品質評価まで含めて提示できる事業者が選ばれる環境へ移行すると考えられます。


ガバメントAI「源内」との関係

デジタル庁は、政府職員が安全に生成AIを利用するためのガバメントAI「源内」の展開も進めています。

2026年度中には、全府省庁の政府職員約18万人が生成AIを利用できる環境を整備する計画です。

源内が政府共通の生成AI利用基盤であるのに対し、第2.0版は、各府省庁が生成AIを調達・利用・運用する際のガバナンスとルールを示す文書です。

取り組み 役割
生成AIガイドライン第2.0版 調達・利用・リスク管理の共通ルール
ガバメントAI「源内」 政府職員が生成AIを利用する共通基盤
CAIO 各府省庁のAIガバナンスを統括
先進的AI利活用アドバイザリーボード 高リスク案件や先進事例への助言
AI相談窓口 各府省庁の調達・技術・リスク相談を支援

基盤、責任者、調達ルール、専門家による支援体制が並行して整備されることで、政府全体での生成AI利用を進める構造です。


まとめ

デジタル庁は2026年6月12日、「行政の進化と革新のための生成AIの調達・利活用に係るガイドライン(第2.0版)」を策定しました。

第2.0版は、生成AIの利活用促進とリスク管理を一体的に進めるため、各府省庁のCAIO、高リスク判定、調達・契約チェック、運用状況の報告などを定めています。

対象は単独のチャットツールだけではありません。

生成AIを構成要素とする政府情報システムを対象とし、RAG、外部データ、プラグイン、個別開発、本番運用、インシデント対応まで含めたルールを示しています。

ただし、生成AIをすべての行政システムへ組み込むことが「標準仕様」になったわけではありません。

正確には、政府が生成AIを行政業務や政府情報システムへ実装する際の、標準的な調達・ガバナンス・安全管理ルールが具体化されたものです。

今回の改定は、行政の生成AI活用が、職員個人の試験利用や文章作成支援から、庁内データを利用したRAGや業務システムへの実装へ進むための制度的な基盤と捉えられます。

地方自治体に直接の遵守義務はありませんが、今後の自治体AI調達や庁内ガイドラインを設計する上でも、重要な基準になるでしょう。


English Summary

On June 12, 2026, Japan’s Digital Agency released Version 2.0 of its Guidelines for the Procurement and Use of Generative AI for the Evolution and Innovation of Public Administration.

The guidelines cover not only standalone conversational AI services but also government information systems that incorporate generative AI as a component.

Key measures include the appointment of Chief AI Officers at each ministry, risk classification, procurement and contract checklists, lifecycle management and reporting requirements for potentially high-risk systems.

The guidelines also address Retrieval-Augmented Generation, including access controls for confidential reference data, protection against indirect prompt injection and management of external services and plugins.

However, the guidelines do not require every government system to incorporate generative AI. They establish a common governance, procurement and risk-management framework for cases in which government organizations decide to deploy AI.

Local governments are not uniformly required to comply, but they are encouraged to use the guidelines as a reference when necessary.


参考・出典

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