

長野県北部に位置する飯綱町は、人口約1万人規模の町です。
りんごの産地として知られる一方、近年は、都市部の人材や企業と地域を継続的につなぐ「関係人口」の創出に力を入れています。
2026年には、総務省の「ふるさと住民登録制度モデル事業」に採択され、楽天グループとの包括連携協定や、日本旅行による自治体・企業向け視察事業などを進めました。
特徴は、オンラインで登録者を集めるだけでなく、りんご農家の支援、地域での買い物、住民や事業者との交流といった現地活動まで制度に組み込もうとしている点です。
本記事の前編では、飯綱町が進めるふるさと住民登録制度と、楽天グループ、日本旅行などとの官民連携を解説します。
飯綱町とは
飯綱町は、長野市の北側に位置する自然豊かな町です。
寒暖差のある気候を生かした果樹栽培が盛んで、特にりんごの産地として知られています。
町内には観光農園、ワイナリー、キャンプ場、スキー場などがあり、農業、観光、地域交流を組み合わせた取り組みを展開しやすい地域資源を持っています。
一方、他の地方自治体と同様に、人口減少、少子高齢化、農業の担い手不足、空き家の増加といった課題を抱えています。
飯綱町は、移住者だけで人口課題を解決しようとするのではなく、町外に住みながら地域へ継続的に関わる人を増やすことにも力を入れています。
関係人口とは
関係人口とは、地域に住む「定住人口」でも、観光で一度訪れる「交流人口」でもなく、特定の地域と継続的に関係を持つ人を指します。
関わり方は一つではありません。
- 定期的に地域を訪問する
- 地域のイベントや農作業に参加する
- 地域産品を継続して購入する
- ふるさと納税などを通じて地域を応援する
- 地域企業や住民と共同でプロジェクトを行う
- 副業やボランティアとして地域課題に関わる
すぐに移住できない人であっても、地域との関係を継続することで、新たな担い手になる可能性があります。
一方、従来の関係人口施策では、「誰が」「どの地域に」「どの程度関わっているのか」を自治体側が継続的に把握しにくいという課題がありました。
ふるさと住民登録制度とは
「ふるさと住民登録制度」は、住所地以外の地域へ継続的に関わる人を登録し、地域との関係を可視化する仕組みです。
住所を移す住民票とは異なり、登録によって法律上の住民になったり、選挙権や行政サービスの対象になったりする制度ではありません。
地域を応援したい人と、担い手や協力者を必要とする自治体・地域事業者を継続的につなげることが主な目的です。
登録者に地域情報や参加機会を届け、地域での活動実績などを把握することで、自治体は関係人口を一時的なイベント参加者ではなく、継続的な地域のパートナーとして捉えやすくなります。
飯綱町は総務省のモデル事業に採択
飯綱町は、総務省の「ふるさと住民登録制度モデル事業」に採択されています。
2026年には、制度の社会実装を見据え、北海道上川町、山梨県甲州市、ふるさと住民応援コンソーシアムなどと連携したプロジェクトを開始しました。
このプロジェクトでは、地域活性化起業人制度を活用した人材派遣や、民間企業が持つ広報、マッチング、データ活用などの知見を地域へ取り入れます。
飯綱町では、りんご、農業、観光、地域事業者などの資源を生かし、登録者が実際に地域活動へ参加できる仕組みづくりが進められています。
単なる名簿登録で終わらせない
制度の重要な点は、登録者数だけを増やすことではありません。
登録後に地域との接点がなければ、名簿上の人数が増えても、地域課題の解決にはつながりにくくなります。
そのため飯綱町では、登録者が農作業や地域活動に参加し、地域内で特典やポイントを利用する仕組みの構築を進めています。
「登録」「地域活動」「交流」「再訪」を一つの流れにすることで、継続的な関係を生み出そうとしています。
楽天グループとの連携
飯綱町は2026年8月10日、楽天グループ株式会社と包括連携協定を締結しました。
協定には、ふるさと住民登録制度や関係人口の創出などに関する連携が含まれています。
楽天グループは、ふるさと住民応援コンソーシアムの事務局を務め、企業、自治体、団体などをつなぐ役割を担っています。
飯綱町は、楽天が持つデジタルプラットフォーム、地域プロモーション、利用者との接点づくりなどの知見を活用し、制度の社会実装を進める方針です。
官民連携が必要な理由
関係人口を増やすためには、自治体が制度をつくるだけでなく、町外の人へ情報を届け、地域活動へ案内し、参加後の関係を継続する必要があります。
しかし、小規模自治体だけで大規模なシステム開発や全国的な広報、参加者データの管理を行うことには限界があります。
民間企業のプラットフォームや顧客接点を活用できれば、自治体単独では接触しにくい層にも地域情報を届けられます。
一方で、民間企業への依存が大きくなりすぎないよう、登録情報の管理、費用、契約期間、データの利用範囲などを明確にする必要があります。
日本旅行によるモデル事業視察
2026年7月17日には、日本旅行の主催により、全国の自治体担当者や企業・団体関係者を対象とした視察事業が実施されました。
この視察は、一般的な行政視察のように説明を聞くだけではなく、ふるさと住民登録制度のプレミアム登録者と同等の流れを体験できる内容として設計されました。
りんご農家で担い手活動を体験
参加者は飯綱町のりんご農家を訪れ、農作業を通じた担い手活動を体験しました。
農業地域では、収穫や摘果などの特定時期に人手が必要になる一方、年間を通じた常用雇用だけでは対応しにくい場合があります。
関係人口が必要な時期に地域を訪れ、農作業へ参加する仕組みをつくることで、農家の担い手不足を補える可能性があります。
参加者にとっても、観光だけでは得られない地域住民との交流や、農業への理解を深める機会になります。
地域ポイントによるインセンティブ
視察行程では、担い手活動に加えて、地域内で利用できる「いいづなポイント」を使った買い物も組み込まれました。
地域活動への参加に対して特典やポイントを付与し、そのポイントを地域内で使ってもらうことで、次のような循環が考えられます。
| 段階 | 内容 |
|---|---|
| 登録 | 町外の人が飯綱町との継続的な関係を登録する |
| 参加 | 農作業や地域活動へ参加する |
| 特典 | 活動に応じたポイントやインセンティブを受ける |
| 地域消費 | 町内施設や店舗でポイントを利用する |
| 再訪 | 新しい活動や交流を目的に再び地域を訪れる |
この流れが定着すれば、関係人口の活動と地域経済を結び付ける仕組みになります。
「iファン倶楽部」と国の制度は別の仕組み
飯綱町では、町独自の登録制度として「iファン倶楽部」を運営しています。
以前は「飯綱町ふるさと住民登録」という名称でしたが、総務省が進める「ふるさと住民登録制度」との混同を避けるため、2026年度から名称が変更されました。
したがって、iファン倶楽部と国のふるさと住民登録制度は、同一の制度ではありません。
iファン倶楽部の目的
iファン倶楽部は、飯綱町出身者や飯綱町に関心を持つ人へ、町内の情報やサービスを提供し、交流の輪を広げることを目的としています。
登録者には、町内施設の利用券、飲食店で使える食事券、観光パンフレット、広報紙、公民館報などが提供されます。
2026年度の会費は、Aコースが5,000円、Bコースが6,500円です。
町のファンを増やし、継続的な情報提供や来訪につなげる独自の仕組みとして位置付けられます。
国のモデル事業との連携可能性
iファン倶楽部で築いてきた町外の人との接点は、国のふるさと住民登録制度を運用する際の基盤になる可能性があります。
ただし、iファン倶楽部が登録者の関係性や活動を高度にデータ化しているとまでは、公開資料から確認できません。
今後、国の制度や民間プラットフォームとの連携が進めば、登録後の活動、訪問、購買、担い手参加などを可視化する仕組みへ発展する可能性があります。
ふるさと納税との違い
ふるさと納税は、自治体へ寄附を行い、税制上の控除を受ける制度です。
一方、ふるさと住民登録制度は、寄附だけでなく、地域活動や交流などを通じて継続的な関係をつくることに重点があります。
| 比較項目 | ふるさと納税 | ふるさと住民登録制度 |
|---|---|---|
| 中心となる行動 | 自治体への寄附 | 地域との継続的な関わり |
| 主な仕組み | 税控除と返礼品 | 登録、情報提供、活動参加、交流 |
| 地域での活動 | 必須ではない | 担い手活動などへの参加を想定 |
| 自治体との関係 | 寄附単位になりやすい | 継続的な関係の構築を目指す |
両制度は対立するものではありません。
ふるさと納税をきっかけに地域を知った人が、ふるさと住民として登録し、現地活動へ参加する流れも考えられます。
飯綱町の取り組みが注目される理由
地域課題と参加プログラムが結び付いている
飯綱町では、関係人口の登録を目的にするのではなく、りんご農家の担い手不足という具体的な地域課題と結び付けています。
地域側が必要とする活動と、町外の人が参加できる体験を一致させることが、制度を継続させるうえで重要です。
参加後の地域消費まで設計している
活動後に地域ポイントを付与し、町内での買い物やサービス利用につなげることで、地域経済への波及を生み出そうとしています。
関係人口の人数だけでなく、その活動が地域にどのような価値を残したかを捉える視点があります。
企業や他自治体と仕組みを共有している
楽天グループ、ユースキャリア教育機構、日本旅行、他のモデル自治体などと連携することで、飯綱町だけに閉じた制度ではなく、他地域へ展開できるモデルの構築を目指しています。
日本旅行による視察事業も、飯綱町の仕組みを全国の自治体や企業へ共有する機会となりました。
モデル事業で確認すべき課題
先進的な取り組みであっても、制度を始めただけで成果が保証されるわけではありません。
今後は、次のような指標を継続的に確認する必要があります。
- 登録者数と継続率
- 登録後に地域を訪れた人の割合
- 農作業や地域活動への参加人数
- 受け入れ農家や事業者の負担
- 地域ポイントの利用額と利用店舗
- 地域内で生まれた経済効果
- 登録者の再訪率
- 移住、二地域居住、副業などへ発展した人数
登録者数だけを成果とすると、地域との実質的な関係が薄い登録者まで含まれる可能性があります。
「何人登録したか」だけでなく、「どのような地域課題の解決につながったか」を評価することが重要です。
前編まとめ
長野県飯綱町は、総務省の「ふるさと住民登録制度モデル事業」に採択され、関係人口を地域の担い手へつなげる仕組みづくりを進めています。
2026年には楽天グループと包括連携協定を締結し、制度の社会実装や関係人口創出に向けた連携を強化しました。
日本旅行が主催した視察事業では、りんご農家での担い手活動、いいづなポイントの利用、地域事業者との意見交換など、登録後の活動を想定したプログラムが実施されています。
また、町独自の「iファン倶楽部」は、総務省の制度そのものではありませんが、町外のファンとの継続的な接点をつくる仕組みとして運営されています。
飯綱町の特徴は、関係人口を抽象的な交流で終わらせず、農業の担い手不足、地域内消費、再訪などの具体的な地域課題へつなげようとしている点です。
後編では、旧小学校を再活用したTOPPANデジタルのIT拠点、子ども向けAI・Minecraft教育、ARグラスによるりんごのPR、空き家対策、最大100万円の移住・結婚支援について解説します。
English Summary
Iizuna Town in Nagano Prefecture has been selected for a national pilot project related to Japan’s Furusato Resident Registration System.
The system is designed to identify and support people who maintain ongoing relationships with communities outside their official place of residence.
Iizuna is working with Rakuten Group, travel company Nippon Travel Agency and other organizations to connect registered participants with local activities, including support work at apple farms and the use of local incentive points.
The town also operates its own membership program called the “i Fan Club.” This is separate from the national registration system and provides local information, facility vouchers and other benefits to people interested in Iizuna.
The key feature of Iizuna’s approach is its attempt to connect relationship-building with actual regional needs, such as agricultural labor shortages, repeat visits and local spending.


コメント