藤枝市、国産生成AI「Sarashina」で行政窓口を支援――RAGで法令・通知を横断検索

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静岡県藤枝市で、国産生成AI「Sarashina」とRAGを組み合わせた行政ナレッジ検索システムの実証が進められています。

窓口職員が住民から相談を受けた際、法令、国からの通知、自治体の業務マニュアルなどを横断的に検索し、回答案と根拠資料を確認できる仕組みです。

システムはソフトバンク株式会社が構築し、総務省の「公共分野における信頼できるAIを用いた開発実証事業」の一環として実施されています。

対象となるのは、藤枝市の市民課、地域包括ケア推進課、福祉政策課です。

国産生成AIが行政判断を自動化するのではなく、職員が法令や通知を調べ、住民へ説明するまでの過程を支援します。

今回の実証は、自治体における生成AI活用が、文章作成や要約から、法的根拠の確認を必要とする行政実務へ進み始めた事例として注目されます。


藤枝市で行政ナレッジ検索システムを実証

ソフトバンクは2026年7月1日、藤枝市と連携し、国産生成AIとソブリン性を備えたクラウドを活用するナレッジ検索システムの実証を開始すると発表しました。

実証では、SB Intuitions株式会社が開発する国産生成AI「Sarashina」と、外部文書から関連情報を検索するRAGを組み合わせます。

ソフトバンクの生成AIサービス「dailyAI」をベースに実証用システムを構築し、データの保存と処理を国内で完結するクラウドサービス「Cloud PF Type A」上で運用する計画です。

実証地域 静岡県藤枝市
事業 総務省「公共分野における信頼できるAIを用いた開発実証事業」
全体統括事業者 株式会社野村総合研究所(NRI)
サービス開発事業者 ソフトバンク株式会社
ユーザ機関・実証フィールド 藤枝市
使用する生成AI SB Intuitionsの国産生成AI「Sarashina」
基盤となるサービス dailyAI、Cloud PF Type A
行政ナレッジの整備支援 グラビス・アーキテクツ株式会社
実施期間 2026年7月~2027年3月予定
実業務での試用期間 2026年9月~2027年1月予定

2026年7月から対象職員への生成AI研修や業務ヒアリングを行い、9月から実証環境を利用した検証へ進む計画です。


対象は藤枝市役所の3部署

実証は、藤枝市役所のすべての部署を一斉に対象とするものではありません。

多くの法令や通知を確認する必要があり、住民や事業者から多様な相談が寄せられる3部署から開始します。

対象部署 主な検証業務
市民課 窓口手続きへの対応、条件確認業務
地域包括ケア推進課 介護事業所への指導内容の整理、根拠確認
福祉政策課 生活保護申請の要件確認、説明文の作成

窓口業務では、相談者の事情によって確認すべき法令や制度が異なります。

過去に同じような相談があったとしても、すべての住民へ同じ回答ができるとは限りません。職員は個別の状況を確認し、法令や通知に照らして判断する必要があります。

そのため、一般的な質問へ回答するチャットボットよりも、高い正確性と説明可能性が求められます。


RAGで法令・通知・マニュアルを横断検索

RAGとは「Retrieval-Augmented Generation」の略で、日本語では検索拡張生成と呼ばれます。

生成AIが学習済みの知識だけで回答するのではなく、指定された文書データベースから質問に関連する情報を検索し、その内容を根拠として回答を生成する仕組みです。

藤枝市の実証では、次のような資料を横断的に検索します。

  • 法令
  • 国や関係機関からの通知
  • 自治体が保有する内部マニュアル
  • 業務上の参考資料
  • 制度や手続きに関する行政情報

職員が質問を入力すると、システムは関連する資料を検索し、「Sarashina」が回答案や住民向けの説明文を作成します。

回答と同時に、根拠となった参照資料や該当箇所も表示します。

基本的な利用の流れ

  1. 職員が相談内容や確認したい条件を入力
  2. RAGが法令、通知、マニュアルなどを検索
  3. 関連性の高い資料と該当箇所を抽出
  4. 「Sarashina」が検索結果に基づく回答案を生成
  5. 職員が回答案と根拠資料を確認
  6. 職員が最終判断を行い、住民へ説明

生成AIの回答をそのまま住民へ提示するのではなく、職員が根拠を確認したうえで利用する設計です。


窓口業務が経験豊富な職員へ集中する課題

行政窓口では、法令、通知、マニュアルなどの情報が複数の資料に分散していることがあります。

必要な情報の所在を把握し、短時間で正しい根拠へたどり着くには、制度に関する知識と実務経験が必要です。

特に戸籍、介護、生活保護などの業務では、個々の事情を確認しながら複数の条件を判断しなければなりません。

その結果、難しい問い合わせへの対応が経験豊富な職員へ集中し、新しく配属された職員が独力で回答するまでに時間がかかる場合があります。

実証で解決を目指す課題

  • 必要な法令や通知を探すのに時間がかかる
  • 情報が複数の資料や保存場所に分散している
  • 職員の経験によって検索時間や説明品質に差が出る
  • 難しい問い合わせがベテラン職員へ集中する
  • 人事異動後の知識習得や引き継ぎに負担がかかる
  • 回答の根拠を住民へ分かりやすく説明する必要がある

生成AIが根拠となる資料を迅速に提示できれば、異動してきた職員も必要な情報を見つけやすくなります。

ベテラン職員へ集中する問い合わせを分散し、職員が住民とのコミュニケーションに使える時間を増やす効果も期待されています。


国産生成AI「Sarashina」を使う理由

「Sarashina」は、ソフトバンクの子会社であるSB Intuitionsが開発する国産の大規模言語モデルです。

今回の実証では、日本語の表現や日本の文化・慣習を踏まえた文脈理解に期待が寄せられています。

行政窓口では、相談者が必ずしも制度上の正式名称を使うとは限りません。地域特有の言い回しや曖昧な表現から、質問の意図を読み取る必要があります。

国産生成AIが、こうした日本語特有の表現や地域性をどこまで適切に理解できるかも検証対象です。

ただし、実証は国産生成AIの優位性を前提として行うものではありません。

同じRAG基盤などの条件で海外の生成AIも利用し、回答精度、根拠提示、説明責任、行政業務への適合性などを比較評価する予定です。


国産AIだけでなく国内クラウドも使用

実証では、AIモデルだけでなく、システムを動かすクラウド基盤にも国内管理を重視した構成を採用します。

利用する「Cloud PF Type A」は、データの保存と処理を日本国内で完結するソブリン性を備えたクラウドサービスです。

自治体業務では、住民情報を含む機微な情報を扱う可能性があります。

そのため、AIの回答精度だけでなく、データをどこで保存し、誰が管理し、どのように処理するかが重要です。

構成要素 役割
Sarashina 検索結果を基に回答案や説明文を生成
RAG 法令、通知、マニュアルなどから関連情報を検索
dailyAI 実証用ナレッジ検索システムのサービス基盤
Cloud PF Type A 国内でデータの保存・処理を行うクラウド基盤
職員による確認 回答と根拠を確認し、最終判断と住民への説明を担当

国産AIと国内クラウドを組み合わせ、回答品質、安全性、説明可能性を含む総合的な有用性を確認します。


AIは行政判断を代行しない

今回の実証で最も重要なのは、AIが行政判断を自動化するシステムではないという点です。

AIが作成するのは、法令や通知などを基にした回答案と説明文です。

回答が正しいか、相談者の状況に適用できるか、ハルシネーションが発生していないかは、藤枝市の職員がその都度確認します。

職員から得た評価はシステムへ継続的にフィードバックし、検索対象となるナレッジや回答品質の改善に利用します。

AIと職員の役割分担

AIが支援する部分 職員が担う部分
関連資料の横断検索 相談者の個別事情の確認
法令や通知の該当箇所の提示 検索結果と根拠の妥当性確認
回答案の作成 最終的な行政判断
住民向け説明文の作成支援 住民への説明とコミュニケーション

AIは職員に代わって給付や認定などを決定するものではなく、職員が適切に判断するための情報検索を支援します。


行政で重要なのは「正しいナレッジ」の整備

生成AIの性能が高くても、参照する行政情報が古かったり、誤っていたりすれば、信頼できる回答は得られません。

法令や制度は改正され、通知や業務マニュアルも更新されます。

そのため、行政向けRAGでは、文書を一度登録して終わりにするのではなく、正しい情報を継続的に更新する管理体制が必要です。

今回の実証では、グラビス・アーキテクツ株式会社が、行政ナレッジの整備と体系化に関して連携します。

同社が事務局を務める「公共AIナレッジ研究会」で検討している「公共AIナレッジベース」の考え方を取り入れながら、AIが参照できる行政情報の整理方法を検討します。

行政ナレッジに求められる条件

  • 情報の内容が正確であること
  • 現在も有効な法令や通知であること
  • 正式な発信元を確認できること
  • 改正前と改正後の情報を区別できること
  • 適用条件や例外を確認できること
  • 回答の根拠となった資料と該当箇所を表示できること
  • 制度改正に合わせて継続的に更新できること
  • 職員の権限に応じて参照範囲を管理できること

行政AIの信頼性は、生成AIモデルの性能だけでなく、参照するナレッジの品質と更新体制によって大きく左右されます。


行政ナレッジを自治体共通の資産へ

今回の実証で注目されるもう一つの点が、行政ナレッジを自治体間で活用する将来構想です。

法令や国の通知など、自治体業務の根拠となる情報には、全国の自治体に共通するものが数多くあります。

しかし、現状では各自治体が個別に資料を収集し、マニュアルを作成し、それぞれの方法で管理している場合があります。

行政ナレッジを共通の考え方で体系化できれば、すべての自治体が一からRAG用のデータベースを構築する必要がなくなる可能性があります。

共通化が期待される情報

  • 国の法令や省令
  • 国から自治体へ発出される通知
  • 制度運用に関する公的な参考資料
  • 全国共通の行政手続きに関する知識
  • 法令改正や制度変更の履歴
  • 行政ナレッジを分類・更新する共通ルール

一方で、自治体独自の条例、要綱、運用方法、地域事情などは、全国共通の情報とは分けて管理する必要があります。

全国共通の行政ナレッジと自治体固有の情報を組み合わせられれば、共通基盤を利用しながら地域ごとの業務にも対応できる可能性があります。

ただし、自治体を越えた行政ナレッジの共通利用は、現時点で完成しているサービスではありません。

今回の実証で得られる知見を踏まえ、将来的な実現を目指す構想です。


自治体ごとのRAG構築から共通基盤へ

自治体ごとに個別のRAGを構築すると、法令や通知の収集、文書の分類、更新作業、回答品質の検証を、それぞれの自治体が行わなければなりません。

小規模な自治体では、AIやデータ管理を担当できる人材を確保することが難しい場合があります。

共通する行政ナレッジを全国的な資産として利用できれば、自治体ごとの導入負担を軽減できる可能性があります。

個別構築型 共通基盤型
自治体ごとに法令や通知を収集 共通資料を体系的に整備
自治体ごとに更新作業が必要 共通部分を継続的に更新
回答品質の検証も個別に実施 複数自治体の知見を改善に活用
導入・運用負担が大きくなりやすい 共通化により負担軽減が期待できる
地域固有情報へ対応しやすい 共通知識と自治体固有情報の分離が必要

共通基盤を実現するには、文書形式、分類方法、更新責任、利用権限などを標準化する必要があります。


実証で確認する五つのポイント

今回の実証では、生成AIが回答できるかだけではなく、行政実務で安全に利用できるかを総合的に検証します。

  1. RAG基盤の有効性
    法令、通知、内部マニュアルを横断的に検索し、必要な資料へ到達できるか。
  2. 回答案・説明文の品質
    職員が実務で利用できる回答案や住民向け説明文を生成できるか。
  3. 根拠提示と説明責任
    回答に使用した資料と該当箇所を示し、職員が妥当性を確認できるか。
  4. 国産AIと海外AIの比較
    回答精度、日本語理解、地域性、行政業務への適合性にどのような違いがあるか。
  5. 業務効率化と住民サービス
    調査時間や職員負担を軽減し、住民対応の質を向上できるか。

実証結果によっては、藤枝市が対象を他の窓口業務へ広げる可能性があります。

ただし、本格導入や全庁展開が決定しているわけではなく、今後の効果検証を踏まえて判断されます。


自治体AI導入のモデルケースになるか

これまで自治体の生成AI活用は、文章作成、要約、アイデア出し、翻訳など、比較的リスクの低い業務から始まるケースが中心でした。

藤枝市の実証は、法令や通知を根拠として住民へ説明する窓口業務まで対象に踏み込んでいます。

行政実務で生成AIを利用するには、次の要素を一体的に整える必要があります。

  • 日本語や行政表現を理解できる生成AI
  • 正確な法令・通知を検索するRAG
  • 参照資料と該当箇所を表示する仕組み
  • 国内でデータを管理できるクラウド基盤
  • 職員による最終確認
  • 行政ナレッジの継続的な更新体制
  • 回答品質を評価し改善する運用

今回の実証で有効性と安全性が確認されれば、他の自治体が行政ナレッジ検索システムを導入する際の参考モデルになる可能性があります。


まとめ

静岡県藤枝市では、国産生成AI「Sarashina」とRAGを組み合わせた行政ナレッジ検索システムの実証が進められています。

総務省の「公共分野における信頼できるAIを用いた開発実証事業」に採択された取り組みで、ソフトバンクがシステムを構築しています。

対象は、市民課、地域包括ケア推進課、福祉政策課の3部署です。

法令、通知、内部マニュアルなどを横断的に検索し、国産生成AIが回答案と住民向け説明文を作成します。職員は回答と根拠資料を同じ画面で確認し、最終的な判断と説明を行います。

実証では、回答精度だけでなく、根拠提示、説明責任、ハルシネーション対策、日本語や地域性の理解、国内クラウドによる情報管理などを検証します。

さらに、行政ナレッジを自治体ごとに個別管理するのではなく、共通の考え方で体系化し、将来的に自治体を越えて活用する構想も示されています。

ただし、行政ナレッジの全国共通利用や藤枝市での全庁展開は、現時点で決定しているものではありません。

まずは職員の判断を支援する仕組みとして、行政実務に国産生成AIを安全に導入できるかを検証する段階です。


English Summary

Fujieda City in Shizuoka Prefecture is conducting a demonstration of an administrative knowledge search system that combines the Japanese-developed generative AI model “Sarashina” with Retrieval-Augmented Generation.

The system searches laws, government notices and internal manuals, then generates draft responses and explanations for municipal employees. The supporting source documents and relevant passages are also displayed so that employees can verify the basis of each response.

The demonstration covers three municipal departments: the Citizens Division, the Community-Based Integrated Care Promotion Division and the Welfare Policy Division.

SoftBank is developing the system as part of a Ministry of Internal Affairs and Communications project focused on trustworthy AI in the public sector. The system also uses a cloud environment designed to store and process data within Japan.

AI will not make final administrative decisions. Municipal employees will verify the generated responses, check for hallucinations and remain responsible for decisions and explanations to residents.

The project also explores a future framework in which administrative knowledge can be organized under common standards and reused across municipalities. This nationwide knowledge-sharing framework remains a future objective rather than an established service.


参考・出典

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