

農林水産省は2026年7月27日、人工知能を活用して農山漁村の課題解決を目指す「AI×『農山漁村』インパクト創出ソリューション実装プログラム」を開始しました。
農業の担い手不足、生産性の低下、地域コミュニティの維持、農山漁村インフラの確保などに対応するAIソリューションを全国から募集し、選定した約10件を農家や自治体などの現場へ実装する取り組みです。
農林水産省が示した問題意識の背景には、基幹的農業従事者の急速な減少があります。
同省の発表では、基幹的農業従事者は2026年の98.7万人から、2046年には21.5万人まで減少すると予測されています。
ただし、21.5万人は現在の人数ではありません。2046年を対象とした将来予測です。
農林水産省は、AIによる省力化だけでなく、地域資源の付加価値向上、所得の向上、雇用創出、農山漁村への人の呼び込みまでを含めた地域再生を目指しています。
AI×「農山漁村」実装プログラムとは
正式名称は「AI×『農山漁村』インパクト創出ソリューション実装プログラム」です。
農山漁村が抱える地域課題をAIで解決し、社会や環境へ具体的な変化や効果を生み出す事業・サービスを全国から募集・選定する取り組みです。
| プログラム名 | AI×「農山漁村」インパクト創出ソリューション実装プログラム |
|---|---|
| 発表日 | 2026年7月27日 |
| 実施主体 | 農林水産省 |
| 募集期間 | 2026年7月27日~8月28日 |
| 選定予定 | 10件程度 |
| 選定結果の公表予定 | 2026年10月初旬 |
| 対象 | AIを活用して農山漁村の課題解決を図る法人 |
| 主な支援 | 企業連携、農家・自治体とのマッチング、地域金融機関の伴走、現場実装に必要な人件費等 |
応募受付は2026年8月28日に終了しています。
2026年9月22日時点では、選定企業や採択されたAIソリューションはまだ公表されておらず、農林水産省は10月初旬に選定結果を発表する予定としています。
基幹的農業従事者が約20年で4分の1以下になる予測
農林水産省は、農山漁村で人口減少が続き、特に基幹的農業従事者が大幅に減少するとしています。
| 年 | 基幹的農業従事者 | 位置付け |
|---|---|---|
| 2026年 | 98.7万人 | 農水省が今回の資料で示した基準となる数値 |
| 2046年 | 21.5万人 | 将来予測 |
98.7万人から21.5万人への減少幅は77.2万人です。
割合では約78%減少し、2046年には2026年の約22%、すなわち4分の1以下になる計算です。
21.5万人は現在の農業従事者数ではなく、2046年の予測値である点に注意が必要です。
また、この数字は農業に関係するすべての就業者ではなく、「基幹的農業従事者」に関するものです。
基幹的農業従事者とは
基幹的農業従事者は、個人経営体において、ふだん仕事として主に自営農業に従事している人を指す統計上の区分です。
農業法人の従業員、季節的に農作業へ参加する人、農業を副業として行う人などを含む「農業に関わるすべての人」と同じ意味ではありません。
そのため、「日本の農業従事者が現在21.5万人になった」「農業に携わる人が全体で21.5万人になる」と断定するのは不正確です。
| 表現 | 評価 |
|---|---|
| 基幹的農業従事者は2026年の98.7万人から2046年に21.5万人へ減少する予測 | 正確 |
| 現在の基幹的農業従事者は21.5万人 | 誤り |
| 日本の農業に関わるすべての人が21.5万人になる | 不正確 |
| 農水省がAIによる農山漁村の課題解決事業を開始した | 正確 |
なぜ農水省はAIを導入するのか
農業人口の減少は、単純に農作業を行う人が少なくなるだけの問題ではありません。
担い手が減少すれば、耕作放棄地の増加、農地や水路の維持管理、生産量の確保、技術継承、地域コミュニティの維持などにも影響が広がります。
農林水産省は、人口減少下でも農業生産基盤を維持・強化するため、生成AIをはじめとする人工知能の活用が必要だとしています。
同時に、農山漁村が持つ食文化、景観、農林水産物、観光資源、地域ブランドなどへAIを組み合わせ、新たな価値を生み出す機会があると説明しています。
想定される主な課題
- 農業従事者の減少と高齢化
- 農作業や地域運営の人手不足
- 熟練者が持つ知識・技術の継承
- 農地や水路などの維持管理
- 農林水産物の販売力・収益力向上
- 農山漁村での雇用創出
- 地域交通や生活サービスの維持
- 鳥獣被害や災害への対応
- 地域ブランドや観光資源の活用
単なるスマート農業導入ではない
今回のプログラムは、農業用ロボットや自動運転農機を導入するだけの事業ではありません。
対象は「農林水産業の生産現場」に限定されず、農山漁村の生活、雇用、地域資源、環境、コミュニティなどを含む幅広い地域課題です。
AIを使って農作業を効率化するだけでなく、地域全体へどのような社会的・環境的効果を生み出せるかが重視されています。
| 分野 | 考えられるAI活用 |
|---|---|
| 生産 | 生育予測、収量予測、病害虫の検出、栽培支援 |
| 作業 | 農作業計画、機械稼働の最適化、作業記録の自動化 |
| 技術継承 | 熟練農業者の判断やノウハウのデータ化 |
| 販売 | 需要予測、価格分析、販売先の提案、商品説明の生成 |
| 地域資源 | 農泊、観光、特産品、食文化の情報発信 |
| インフラ | 農道、水路、ため池などの点検・異常検知 |
| 鳥獣被害 | カメラ画像の解析、出没予測、捕獲・対策支援 |
| 行政 | 申請支援、地域データ分析、問い合わせ対応 |
これらは今回のプログラムが想定する課題領域から考えられる活用例であり、実際に採択される事業内容は選定結果の公表後に確認する必要があります。
地域固有の情報を使ったAIモデルを重視
農林水産省は、農山漁村でAI活用事例を生み出すには、地域課題の解決に役立つ「ローカルな情報」を利用したAIモデルが必要だと説明しています。
農業の条件は、地域によって大きく異なります。
- 気温・降水量・積雪量
- 標高や地形
- 土壌の性質
- 栽培する農作物
- 農地の規模と分布
- 農業用水の状況
- 鳥獣被害の発生傾向
- 地域の流通・販売環境
- 農家や集落が持つ経験知
全国共通の一般的な生成AIだけでは、こうした地域差を十分に反映できない場合があります。
地域のデータ、農家の知識、行政情報、気象情報、センサー情報などを組み合わせ、現場で利用できる精度と操作性を備えた仕組みにすることが重要です。
選定された約10件を現場実装へ
農林水産省は、応募された取り組みの中から10件程度をAIソリューションとして選定します。
選定後は、アイデアを紹介するだけで終わらせず、農家や自治体などの現場へ実装するための支援を行います。
選定事業への主な支援
- 農業関連企業との連携支援
- 農山漁村の活性化に取り組む企業との連携支援
- 地域金融機関による伴走支援
- 農家や自治体とのマッチング
- 現場実装に必要な人件費等の支援
- 地域での展開に向けた事例化
地域金融機関が関わる点も、今回のプログラムの特徴です。
AI企業が優れた技術を持っていても、農村地域との接点がなければ、実証する場所や協力者を確保できません。
一方、自治体や農家が課題を抱えていても、その課題に対応できるAI企業を自力で探すことは容易ではありません。
地域の行政や産業との関係を持つ地域金融機関が間に入り、企業、自治体、農家を結び付けることで、実装可能な案件を形成する狙いがあります。
応募対象と選定方法
応募対象は、AIを利用して農山漁村の課題解決につながる取り組みを展開する法人です。
主な応募要件
- 農山漁村の課題を解決できるAIを用いた取り組みを展開していること
- 自治体などとの共創実績または関心があること
- 事業期間を通じて課題解決へ取り組む体制を整備できること
- 法人格を有すること
- 法令違反や公序良俗に反する行為がないこと
- 使用するAIモデルについて必要な情報提供に対応できること
- 情報セキュリティを踏まえて事業を実施できること
審査は有識者による選定委員会が行います。
すべての評価項目を高い水準で満たす事業者だけでなく、実現可能性や実績が十分でなくても、課題設定や課題構造への理解が特に優れている取り組みを「チャレンジ枠」として一定数選定するとしています。
すでに完成したサービスだけでなく、現場課題を深く理解した新しい提案にも機会を与える設計です。
農水省が重視する「インパクト」とは
プログラム名に含まれる「インパクト」は、単にAIを導入した実績や利用回数を意味するものではありません。
農林水産省は、事業や活動によって生じる社会的・環境的な変化や効果を、短期・長期を問わずインパクトと定義しています。
例えば、AIによって農作業時間を短縮できたとしても、それだけでは導入効果の一部です。
短縮された時間によって経営規模を維持できたのか、所得が増えたのか、耕作放棄地の発生を防げたのか、地域の雇用や生活機能を維持できたのかまで評価する考え方です。
| 段階 | 評価例 |
|---|---|
| 導入 | AIシステムを農家や自治体へ導入 |
| 直接的な成果 | 作業時間、移動時間、確認作業を削減 |
| 経営への効果 | 生産量、品質、所得、販売力を向上 |
| 地域への効果 | 農地、雇用、インフラ、コミュニティを維持 |
| 社会的な効果 | 食料安全保障や環境保全へ貢献 |
AIだけで担い手不足を解決できるわけではない
基幹的農業従事者が大幅に減少する中、AIは重要な手段になりますが、AIだけですべての問題を解決できるわけではありません。
農作業には、天候、土壌、生育状態、地域の地形など、現場でなければ判断できない要素が数多くあります。
農業用水や農道の維持、地域活動、災害対応などには、人と人の協力も必要です。
AI導入と並行して、次のような取り組みを進める必要があります。
- 新規就農者の確保と育成
- 農地の集約と経営規模の適正化
- 農業法人や地域組織の育成
- 農業支援サービスの拡充
- 通信環境やセンサーなどの基盤整備
- 農業データの標準化
- AIを利用できる人材の育成
- 導入後の保守・運用体制
- 費用対効果の検証
AIは農業者の代わりになるというより、少ない人数でも農業生産や地域機能を維持するための支援手段として考える必要があります。
自治体や地域企業にとっての可能性
今回のプログラムは、AI開発企業だけに関係するものではありません。
自治体、農業法人、地域金融機関、観光事業者、交通事業者、農産物加工・販売事業者などにも関係します。
地域側に求められるのは、「AIを導入したい」という漠然とした希望ではなく、どの作業や地域機能に、どの程度の負担が発生しているのかを具体化することです。
地域で整理すべき項目
- 人手が不足している業務
- 熟練者しか判断できない作業
- 紙や口頭で管理している情報
- 点検に時間がかかっている施設
- 販売機会を失っている地域産品
- 観光や農泊へ活用できる地域資源
- 自治体・農協・農家が保有するデータ
- 実証実験へ参加できる農家や集落
地域課題をデータと業務単位で整理できれば、AI企業とのマッチングや実証事業の設計を進めやすくなります。
今後の注目点
今後は、2026年10月初旬に予定されている選定結果が重要になります。
どの企業が選ばれ、どの地域課題を対象とし、どの自治体・農家・地域金融機関と連携するのかが注目されます。
- 採択される約10件の事業内容
- 対象となる地域と農林水産分野
- 生成AI、画像認識、予測AIなどの技術構成
- 地域金融機関の役割
- 現場実装に対する支援規模
- 農家や自治体が負担する費用
- 地域データの管理方法
- 成果を測定する指標
- 実証後の継続運用と全国展開
AIの実証実験を行っただけで終わるのか、地域が継続して使えるサービスとして定着するのかが、事業の成否を左右します。
まとめ
農林水産省は2026年7月27日、「AI×『農山漁村』インパクト創出ソリューション実装プログラム」を開始しました。
農山漁村の課題解決に役立つAI事業を全国から募集し、約10件を選定した上で、企業連携、地域金融機関の伴走、農家・自治体とのマッチング、現場実装に必要な人件費等を支援します。
背景には、基幹的農業従事者が2026年の98.7万人から、2046年には21.5万人まで減少するという予測があります。
21.5万人は現在の人数ではなく、2046年の予測値です。また、農業に関わるすべての人ではなく、基幹的農業従事者を対象とした数字です。
農水省が目指すのは、AIによる農作業の省力化だけではありません。
農林水産物や食文化、観光、地域ブランドなどの付加価値を高め、所得と雇用を生み出し、農山漁村のインフラやコミュニティを維持することまでを対象としています。
基幹的農業従事者が約20年間で4分の1以下になる可能性が示される中、AIを実証段階から地域の実運用へ移せるかが、日本の農山漁村政策における重要な課題になります。
English Summary
On July 27, 2026, Japan’s Ministry of Agriculture, Forestry and Fisheries launched a program to implement artificial intelligence solutions in rural, agricultural, forestry and fishing communities.
The ministry plans to select approximately ten projects that use AI to address local challenges. Selected projects will receive support for cooperation with agricultural companies, matching with farmers and local governments, assistance from regional financial institutions and personnel costs related to field implementation.
The program is based on the ministry’s projection that the number of core agricultural workers will decline from 987,000 in 2026 to 215,000 in 2046.
The figure of 215,000 is a forecast for 2046, not the current number of agricultural workers. It also refers specifically to core agricultural workers rather than everyone involved in Japan’s agricultural sector.
The initiative covers more than agricultural automation. It aims to maintain food production, rural infrastructure and local communities while creating employment and increasing the value of regional products, food culture and tourism resources.
参考・出典
- 農林水産省「AI×『農山漁村』インパクト創出ソリューション実装プログラムを開始します!」
- 農林水産省「AI×『農山漁村』インパクト創出ソリューション実装プログラム」
- 農林水産省「伴走支援による好事例の創出」
- 農林水産省「農山漁村における社会的インパクトに関する検討会」
※本記事は2026年9月22日時点で公表されている農林水産省の公式資料に基づいています。選定結果は2026年10月初旬に公表される予定です。

コメント