

【教育×メタバース】日光市の教育旅行DXがもたらす効果とは?導入課題と地方創生への可能性【後編】
前編では、栃木県日光市が提供する教育旅行向けメタバース「日光の 学び旅かな メタバース」の概要と、6つの学習ルームについて紹介しました。
世界遺産「日光の社寺」、奥日光の自然、足尾銅山、食文化、伝統工芸、アウトドア体験など、日光市が持つ幅広い地域資源を、修学旅行前に仮想空間で学べる取り組みです。
しかし、教育現場にメタバースを導入する目的は、デジタル技術を体験することだけではありません。
重要なのは、メタバースで得た知識や興味を、実際の修学旅行や現地での体験へどのようにつなげるかという点です。
後編では、教育旅行メタバースに期待される学習効果、自治体にとってのメリット、導入・運用上の課題、観光DXや地方創生への可能性を解説します。
教育旅行の事前学習にメタバースを使う意味
従来の修学旅行における事前学習では、教科書、パンフレット、写真、映像、Webサイトなどが主に使われてきました。
これらは地域の情報を伝えるうえで有効ですが、児童・生徒が場所同士の位置関係や空間の広がりを感覚的に理解することは簡単ではありません。
メタバースでは、利用者自身が仮想空間の中を移動し、興味を持った場所やコンテンツを選びながら学習できます。
文部科学省の教員養成・教員研修に関する調査でも、教育におけるメタバース活用について、子どもが空間を自由に探索し、立体的な理解を深められる可能性が指摘されています。
ただし、こうした一般的な研究結果が、そのまま日光市のサービスにおける学習効果を証明するものではありません。
日光市の取り組みについて評価するには、利用した学校や児童・生徒を対象に、学習前後の理解度、興味の変化、現地での行動などを継続的に検証する必要があります。
期待される3つの教育効果
1.現地へ行く前に興味を高める
修学旅行先について事前に知識を得ていても、児童・生徒がその地域を自分自身の学びとして捉えられなければ、現地での見学は受け身になりやすくなります。
メタバース空間を自由に探索し、気になる場所を発見する体験は、現地への興味を引き出すきっかけになります。
例えば、仮想空間で陽明門を見た児童が、実際の修学旅行で彫刻や建築を詳しく確認する。足尾銅山の坑道を体験した生徒が、現地で産業発展と環境問題について考える。
このように、事前学習で生まれた疑問を現地で確かめる学習へつなげられることが、教育旅行メタバースの大きな可能性です。
2.場所同士の関係を立体的に理解する
日光市は広い市域の中に、世界遺産、湖、滝、湿原、鉱山、温泉地、伝統産業など、多様な地域資源を持っています。
メタバース上で複数の地域資源を体験することで、個別の観光地を点として覚えるだけでなく、日光市全体を一つの学習対象として捉えやすくなります。
写真や文章による説明と、空間を移動しながら得られる視覚的な体験を組み合わせることで、地域への理解を深められる可能性があります。
3.探究学習のテーマを見つける
「日光の 学び旅かな メタバース」には、歴史や観光だけでなく、環境保全、カーボンニュートラル、産業、公害、伝統工芸、食文化などのテーマが含まれています。
そのため、児童・生徒の関心に応じて、複数の教科や社会課題を横断した探究学習へ発展させることができます。
| 地域資源 | 考えられる学習テーマ |
|---|---|
| 日光の社寺 | 歴史・宗教・建築・文化財保護 |
| 奥日光 | 自然環境・生態系・環境保全 |
| 足尾銅山 | 近代産業・公害・植樹・持続可能性 |
| 日光彫・日光下駄 | 伝統工芸・地域産業・文化継承 |
| 食文化 | 地域資源・観光・地域経済 |
| アウトドア体験 | 自然体験・安全管理・観光産業 |
自治体にとってのメリット
教育旅行先としての魅力を事前に伝えられる
日光市は、すでに日光市を訪れる予定の学校だけでなく、これまで日光市を教育旅行先として選んでいなかった学校にも、メタバースを体験してもらうことを目的に掲げています。
学校や旅行会社が教育旅行先を検討する段階で、地域の学習資源をデジタル空間から確認できれば、日光市を候補として認識してもらう接点になります。
教育教材としての機能と、観光プロモーションとしての機能を一つの空間に持たせている点が、この取り組みの特徴です。
複数の地域資源を一体的に発信できる
日光市は、日光東照宮や華厳滝など、全国的に知られた観光資源を持っています。
一方で、足尾地域の産業遺産、伝統工芸、食文化、環境保全活動などは、旅行前の児童・生徒に十分知られているとは限りません。
メタバースに複数の地域資源を集約することで、有名な観光名所を入口にしながら、地域の歴史、産業、文化、環境問題へ関心を広げられます。
現地を訪問できない人にも地域を伝えられる
距離、時間、身体的な事情などによって、すべての人が現地を訪問できるとは限りません。
ブラウザからアクセスできる仮想空間は、地域を知る機会を広げる手段になります。
ただし、デジタル環境にも端末性能、通信環境、操作性、アクセシビリティなどの差があります。メタバースを導入しただけで、すべての参加格差が解消されるわけではありません。
教育メタバース導入における課題
1.端末や通信環境による体験差
「日光の 学び旅かな メタバース」は、パソコン、スマートフォン、VRゴーグルなどから利用できます。
専用アプリを必要としないブラウザ型は導入しやすい一方、学校ごとの端末性能やネットワーク環境によって、読み込み速度や操作性に差が生じる可能性があります。
同時に多数の児童・生徒がアクセスする授業では、事前に通信環境や端末の動作を確認する必要があります。
2.教員の準備と操作支援
メタバースを授業で利用するには、教員がアクセス方法、基本操作、学習目的、授業の進め方を事前に理解しておく必要があります。
操作方法を説明するだけで授業時間の多くを使ってしまえば、本来の学習目的が薄れてしまいます。
短時間で使える操作マニュアル、授業用ワークシート、学年別の学習モデル、トラブル発生時の支援体制などを整えることが重要です。
3.情報更新と継続的な運用
観光情報、施設情報、交通環境、地域の取り組みは変化します。
メタバース空間を継続的な教育教材として利用するためには、公開後も情報を更新し、端末やブラウザの変化に対応しなければなりません。
空間を制作して終わりにするのではなく、コンテンツ更新、保守、学校からの意見収集まで含めた運用体制が必要です。
4.利用実績と学習効果の検証
2026年8月現在、日光市公式サイトではサービスの公開と学校利用の案内が継続されています。
一方、学校数、児童・生徒数、継続利用率、学習効果などの詳しい実績は、確認できる範囲では公表されていません。
今後、自治体の教育DX事例として評価を高めるには、次のような指標を継続的に確認することが考えられます。
- 利用した学校数・児童生徒数
- メタバース体験前後の地域理解度
- 日光市への興味や訪問意欲の変化
- 現地での質問・観察行動の変化
- 教員の準備時間と操作上の負担
- 児童・生徒、教員、旅行会社からの評価
VRを利用した教育では、視覚的な情報への理解や没入感が高まる可能性がある一方、教材によっては認知的な負担が増えることも報告されています。
そのため、「メタバースを使ったか」ではなく、「どの学習目的に、どのような方法で使ったか」を検証することが重要です。
事前学習・現地体験・事後学習をつなぐ可能性
現在、日光市は本サービスを主に教育旅行前の事前学習教材として位置づけています。
今後は、メタバースでの学びを現地体験や旅行後の振り返りまでつなげることで、さらに継続的な教育プログラムへ発展させられる可能性があります。
| 学習段階 | 活用例 |
|---|---|
| 事前学習 | メタバースを探索し、興味のある地域資源や疑問を見つける |
| 現地体験 | 仮想空間で見た場所を訪問し、実物を観察・比較する |
| 事後学習 | 写真や記録を整理し、現地で分かったことを発表する |
例えば、事前学習で児童・生徒が作成した質問を現地で確認し、旅行後にメタバース内の講義室で発表・共有する仕組みも考えられます。
ただし、これは現時点で公表されている日光市の運用内容ではなく、今後考えられる発展的な活用方法です。
地方創生へつながる教育メタバース
教育旅行は、児童・生徒の学習機会であると同時に、宿泊、交通、飲食、体験、地域産品など、地域経済と深く関係しています。
修学旅行をきっかけに地域を知った児童・生徒が、将来、家族旅行や個人旅行で再び訪れる可能性もあります。
その意味で、教育旅行メタバースは短期的な観光誘客だけでなく、地域との長期的な関係を生み出す入口になり得ます。
さらに、多言語対応、地域事業者との連携、デジタルアーカイブ、AIによる学習案内などを組み合わせれば、教育、観光、文化継承を横断する地域プラットフォームへ発展する可能性があります。
一方で、機能を増やすこと自体が目的にならないよう、児童・生徒にとって本当に必要な学習体験を中心に設計することが求められます。
まとめ
日光市の「日光の 学び旅かな メタバース」は、地域の自然、歴史、産業、文化を教育旅行の事前学習へつなげる観光DXの取り組みです。
仮想空間で地域を探索することで、児童・生徒が現地への興味を持ち、修学旅行当日の観察や探究を深められる可能性があります。
自治体にとっても、教育旅行先としての魅力を広く発信し、有名な観光地だけでなく、地域産業や伝統文化、環境保全活動まで伝えられるメリットがあります。
一方で、端末・通信環境、教員への操作支援、コンテンツ更新、利用実績や学習効果の検証といった課題も残されています。
教育メタバースを一時的なデジタル施策で終わらせないためには、技術導入だけでなく、事前学習、現地体験、振り返りを結び付ける学習設計と継続的な改善が必要です。
「日光の 学び旅かな メタバース」は、メタバースが現地体験を代替するのではなく、地域を知り、実際に訪れ、より深く学ぶための入口となることを示す自治体事例です。
English Summary
Nikko City’s educational-trip metaverse is designed to help students learn about the region before visiting it on a school trip.
By exploring Nikko’s cultural heritage, natural environment, industrial history, traditional crafts and local food in a virtual space, students may develop questions and interests that can be explored during their actual visit.
For local governments, an educational metaverse can also introduce regional resources to schools considering future travel destinations. However, successful implementation requires suitable devices and network access, teacher support, regular content updates and evidence-based evaluation of learning outcomes.
The key is not simply introducing metaverse technology. It is designing a continuous learning process that connects preparation, real-world experience and reflection.
参考・出典
- 日光市「教育旅行メタバース」
- 日光市観光協会「日光市教育旅行メタバース」
- 日本情報通信「日光市の教育旅行メタバースサービスを提供開始」
- 文部科学省「メタバースを活用した先導的な教員養成・教員研修システム」
- UNESCO「Virtual reality in education」
- Frontiers in Virtual Reality「The impact of virtual reality on learning outcomes」

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