

人口減少が進む地方自治体では、移住者を増やすことだけでなく、地域外から継続的に関わる「関係人口」をどのように育てるかが重要な課題になっています。
山梨県小菅村が展開しているのが、村外に住む小菅村のファンを「1/2こすげ村人」と位置づける取り組みです。
村を訪れる人に「こすげ村人ポイントカード」を発行し、村内での買い物や施設利用、地域活動への参加などを通じて、小菅村との継続的な関係をつくっています。
一部では「小菅村デジタル住民票」や「NFTを使ったWeb3事業」として紹介されることがありますが、公開されている公式情報を確認する限り、小菅村の制度はNFT型デジタル住民票ではありません。
ポイントカードと現地での交流を組み合わせ、観光客を村づくりの仲間へとつなげる関係人口施策です。
山梨県小菅村とは
小菅村は、山梨県北東部に位置する多摩川源流の村です。
村域の大部分を森林が占め、清流、山林、温泉、農産物などの地域資源を持っています。一方で、人口減少や高齢化、地域活動の担い手不足といった課題にも直面しています。
こうした小規模自治体では、定住人口だけで地域の産業やコミュニティを維持することが難しくなっています。
そこで小菅村は、村外から訪れる人を単なる観光客として捉えるのではなく、小菅村に継続的に関わる仲間として位置づける考え方を打ち出しました。
「1/2こすげ村人」とは
小菅村に実際に住んでいる住民を「1/1村人」、小菅村が好きで繰り返し訪れる村外の人を「1/2村人」と呼ぶのが、小菅村独自の考え方です。
住民票を小菅村へ移していなくても、地域に関心を持ち、買い物や交流、ボランティアなどを通じて村へ関わる人を、村づくりの仲間として受け入れます。
「観光客」や「交流人口」よりも地域に近く、実際の住民とは異なる立場から村を応援する存在といえます。
| 区分 | 小菅村との関係 |
|---|---|
| 1/1村人 | 小菅村に居住する実際の村民 |
| 1/2村人 | 村外に住みながら、小菅村を訪問・利用・応援する人 |
| 一般的な観光客 | 観光やレジャーを目的に一時的に訪れる人 |
重要なのは、1/2村人が法的な住民資格ではないことです。
住民基本台帳に登録される住民票や、行政手続きに利用する公的な身分証明書ではありません。村外の人と地域との関係を表す、小菅村独自の呼び方です。
「こすげ村人ポイントカード」の仕組み
1/2村人と小菅村をつなぐ仕組みが、「こすげ村人ポイントカード」です。
小菅村に住む1/1村人だけでなく、村外から小菅村を訪れる1/2村人も利用できます。
村内の加盟店を利用するとポイントが貯まり、貯めたポイントを加盟店などで利用できます。
公式サイトでは、カード提示による「小菅の湯」の割引、季節情報やアンケートの配信なども案内されています。
- 村内加盟店での買い物や施設利用
- 利用に応じたポイントの付与
- 貯めたポイントの利用
- 小菅の湯の利用料金割引
- メールマガジンやDMによる情報提供
- アンケートや地域活動の案内
また、スマートフォン向けのアプリを利用することで、ポイントの確認や利用をスマートフォン上で行うことも案内されています。
単なる観光施設の割引カードではなく、村への訪問履歴や消費、情報発信、地域活動への参加をつなげる接点として活用されている点が特徴です。
ポイントだけでは終わらない地域参加
小菅村の取り組みで注目したいのは、買い物によるポイント付与だけではありません。
1/2村人が地域活動へ参加し、村民と一緒に作業や交流を行う機会が設けられています。
これまで公式サイトでは、次のような活動が紹介されています。
- 梅採りボランティア
- 干し柿作り
- 登山道の見回り
- 祭りや地域イベントの運営支援
- 村外参加者のスキルや知見を生かす取り組み
農作業や登山道の管理、地域行事などは、人手不足に直面する小規模自治体にとって重要な活動です。
一方、村外の参加者にとっては、通常の観光では得られない地域住民との交流や、村づくりへ参加する体験になります。
地域側が一方的にサービスを提供するのではなく、村民と1/2村人が一緒に地域を支える関係へ発展させようとしていることが分かります。
観光客を「村づくりの仲間」へ変える5段階
| 段階 | 主な行動 | 地域との関係 |
|---|---|---|
| 1.知る | 観光情報やSNSなどで小菅村を知る | 認知 |
| 2.訪れる | 温泉、道の駅、自然体験などを利用する | 交流人口 |
| 3.登録する | こすげ村人ポイントカードへ入会する | 継続的な接点 |
| 4.参加する | 買い物、再訪、アンケート、地域活動へ参加する | 関係人口 |
| 5.支える | 村民と一緒に地域課題や村づくりへ関わる | 地域の担い手 |
一度訪れただけの観光客を、いきなり移住者へ変えることは現実的ではありません。
しかし、ポイントカードをきっかけに情報を届け、再訪や地域活動への参加を促すことで、地域との関係を少しずつ深めることは可能です。
小菅村の施策は、観光、消費、交流、ボランティアを段階的につなぐ関係人口づくりと捉えられます。
NFT型デジタル住民票との違い
小菅村の「1/2村民」は、NFTやブロックチェーンを使ったデジタル住民票ではありません。
自治体のデジタル住民施策としては、新潟県長岡市の旧山古志村や山形県西川町などの事例が知られています。
旧山古志村では、錦鯉をモチーフとした「Nishikigoi NFT」に電子住民票の意味を持たせ、NFT保有者をデジタル村民として位置づけています。
山形県西川町では、自治体発行の「デジタル住民票NFT」を導入し、保有者限定のコミュニティや施設利用特典などを提供しています。
| 項目 | 小菅村 | NFT型デジタル住民票 |
|---|---|---|
| 参加資格 | ポイントカードへの登録 | NFTの取得・保有 |
| 主な技術 | ポイントカード・会員管理 | ブロックチェーン・NFT |
| 主な活動 | 買い物、再訪、地域活動、ボランティア | オンラインコミュニティ、投票、限定特典など |
| 地域との接点 | 現地での参加を重視 | オンラインと現地を組み合わせる事例が多い |
| 法的な住民票 | 該当しない | 該当しない |
どちらも村外の人を地域へつなげることを目的としていますが、使用する技術と参加方法が異なります。
小菅村の特徴は、先端的なWeb3技術ではなく、分かりやすいポイント制度と現地での参加機会を組み合わせていることです。
小菅村方式のメリット
参加のハードルが低い
NFT型の制度では、暗号資産ウォレットの作成やNFTの取得など、利用者に一定のデジタル知識が求められる場合があります。
ポイントカードは一般的な店舗や観光施設でも使われているため、幅広い年齢層が参加しやすい仕組みです。
現地での消費につながる
加盟店や施設でポイントを貯めたり利用したりする仕組みは、村内での買い物やサービス利用を促す接点になります。
関係人口の人数を増やすだけでなく、地域経済とのつながりを持たせられる点がメリットです。
再訪のきっかけをつくれる
ポイント、割引、メールマガジン、地域活動の案内などを組み合わせることで、一度訪れた人に再び小菅村を訪れてもらう理由をつくれます。
地域の人手不足を補える
梅採り、干し柿作り、登山道の見回り、イベント運営などへ村外の人が参加すれば、地域活動の担い手を広げることができます。
ただし、地域住民の雇用を安価なボランティアで代替することがないよう、活動内容、責任範囲、安全管理を明確にする必要があります。
自治体が導入する際の課題
登録者数だけを成果にしない
ポイントカードの登録者が増えても、実際の来訪や地域活動につながらなければ、関係人口施策として十分な成果を上げたとはいえません。
登録者数に加えて、再訪率、加盟店利用、地域活動への参加、住民との交流などを確認する必要があります。
ポイント事業の継続的な運用
ポイントの付与・利用、加盟店への対応、アプリやシステムの保守、問い合わせ対応には継続的な運用が必要です。
制度を開始する前に、運営主体、費用、利用データの管理、加盟店の負担を整理しなければなりません。
参加者の希望と地域課題を結びつける
村外の参加者が持つスキルや関心と、地域が必要としている活動が一致するとは限りません。
参加者を募集するだけでなく、活動内容を調整し、住民と参加者の間をつなぐコーディネーターの存在が重要になります。
個人情報と利用データの管理
会員情報、来訪履歴、購買情報、アンケート回答などを取得する場合は、利用目的を明確にし、適切に管理する必要があります。
関係人口の可視化は有効ですが、必要以上の情報収集にならないよう配慮が求められます。
ふるさと住民登録制度との関係
国は、住所地以外の地域に継続的に関わる人を登録し、地域との関係を可視化する「ふるさと住民登録制度」を推進しています。
小菅村の1/2村人制度は、国のふるさと住民登録制度そのものではありません。
しかし、村外の人を登録し、情報発信、地域内消費、再訪、地域活動への参加へつなげてきた点では、ふるさと住民登録制度と共通する考え方を持っています。
小菅村がすでに持つポイントカードの会員基盤や地域活動の仕組みは、今後、国の制度と連携する際にも活用できる可能性があります。
一方で、既存会員を国の制度へどのように移行・連携するか、本人同意、個人情報、登録の重複をどのように扱うかなどの整理が必要です。
自治体DXで重要なのは技術より「参加の設計」
自治体の関係人口施策では、NFT、Web3、メタバース、地域アプリなどの新しい技術が注目されがちです。
しかし、技術を導入しただけでは、地域との継続的な関係は生まれません。
重要なのは、地域外の人がどのようなきっかけで地域を知り、訪れ、再訪し、地域活動へ参加するのかを設計することです。
小菅村は、ポイントカードという比較的分かりやすい仕組みを入口にしながら、買い物、観光、情報発信、ボランティアをつなげています。
先端技術の導入そのものではなく、地域外の人が段階的に村づくりへ関われる導線を用意していることが、この事例から得られる重要な示唆です。
まとめ
山梨県小菅村の「1/2こすげ村人」は、村外に住む小菅村のファンを、地域と継続的に関わる仲間として位置づける関係人口施策です。
「こすげ村人ポイントカード」を通じて、村内での買い物や施設利用、温泉割引、情報提供などの接点をつくっています。
さらに、梅採り、干し柿作り、登山道の見回り、地域イベントなどへ1/2村人が参加することで、観光客から村づくりの担い手へ関係を深める仕組みが構築されています。
小菅村の制度は、NFTやWeb3を使ったデジタル住民票ではありません。
しかし、先端技術を使わなくても、会員制度、ポイント、現地体験、継続的な情報発信を組み合わせることで、実践的な関係人口施策を展開できることを示しています。
自治体に求められるのは、登録者数を増やすことだけではありません。
地域外の人が訪れ、消費し、住民と交流し、地域課題の解決へ参加するまでの流れをつくることです。
小菅村の「1/2村民」は、関係人口を単なる地域ファンで終わらせず、地域を支える仲間へつなげる地方創生事例といえるでしょう。
English Summary
Kosuge Village in Yamanashi Prefecture calls people who live outside the village but continue to visit and support the community “1/2 Kosuge Villagers.”
The program is built around the Kosuge Villager Point Card. Members can earn and use points at participating businesses, receive certain local benefits and obtain information about village activities.
Some members also participate in local activities such as plum harvesting, dried-persimmon production, trail monitoring and community events.
Despite occasional confusion, the program is not an NFT-based digital residency system and does not rely on Web3 or blockchain technology.
Its main strength is the combination of a simple membership and point system with real-world visits, local spending and community participation. The initiative demonstrates how a municipality can gradually turn visitors into long-term supporters and contributors.

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