最大100自治体に5年間無償――ソフトバンクが自治体AI導入の土台づくり

ai

ソフトバンク株式会社と株式会社WiseVineは2026年9月15日、自治体職員の担い手不足を解決するための戦略的提携に合意したと発表しました。

提携の第一段階として、2027年度末までに経営管理システムなどの導入について公示した最大100自治体を対象に、WiseVineが提供する自治体向け経営管理システム「Build & Scrap」のサービス利用料を、利用開始から5年間無償にします。

今回の取り組みは、単なる自治体向けシステムの無償提供ではありません。

自治体内に分散している予算、事業、評価、意思決定などの情報を整理し、将来的な行政特化型AIの構築に利用できる業務基盤を整える構想です。

自治体AIの導入を急ぐのではなく、AIが参照できるデータと業務履歴を先に蓄積する。ソフトバンクとWiseVineの提携は、自治体DXが「個別業務のデジタル化」から「AIを前提とした経営管理」へ進む動きとして注目されます。


ソフトバンクとWiseVineが戦略的提携

今回の提携は、自治体業務の効率化と、自治体職員の担い手不足への対応を目的としています。

ソフトバンクは、2026年9月15日時点で187自治体と連携協定を締結し、自治体DX、AI活用、各種デジタルサービスの提供やコンサルティングなどを進めています。

一方のWiseVineは、自治体の予算編成や経営管理を支援するGovTech企業です。

両社は、ソフトバンクが持つ自治体とのネットワークやAI・デジタル技術と、WiseVineが蓄積してきた自治体財政・予算編成の知見を組み合わせ、全国の自治体運営を支援します。

発表日 2026年9月15日
提携企業 ソフトバンク株式会社、株式会社WiseVine
対象サービス 自治体向け経営管理システム「Build & Scrap」
対象自治体数 最大100自治体
対象条件 2027年度末までに経営管理システムなどの導入について公示した自治体
無償期間 サービス利用開始から5年間
将来構想 自治体業務のノウハウを活用した行政特化型AIの構築

「最大100自治体に5年間無償」の対象範囲

今回の発表で特に注目されるのが、「最大100自治体」と「5年間無償」という規模です。

対象となるのは、2027年度末までに経営管理システムなどの導入について公示した自治体です。

すべての自治体が自動的に無償提供の対象になるわけではなく、実際の導入には、公示やデータ移行などの手続きが必要になります。

また、5年間無償となるのは「Build & Scrap」のサービス利用料です。

導入に必要な費用、サーバー利用料、運用・保守費用まで、すべて無償になるわけではありません。

費用項目 取り扱い
サービス利用料 利用開始から5年間無償
導入費用 自治体が負担
サーバー利用料 自治体が負担
運用・保守費用 自治体が負担
データ取り込みなどの導入作業 作業終了後にサービス利用を開始

「5年間完全無料」という意味ではないため、自治体は導入時に必要となる作業範囲や総費用を確認する必要があります。


自治体経営管理システム「Build & Scrap」とは

「Build & Scrap」は、WiseVineが提供する自治体向けの予算編成・経営管理システムです。

自治体の予算編成では、各部署から提出される予算要求を集約し、財政担当部署が内容を確認して査定します。その後も、予算の執行、事業の進捗確認、行政評価など、多くの情報を継続して管理しなければなりません。

しかし、自治体によっては、これらの情報が紙の書類、Excelファイル、個別システム、担当者の記録などに分かれて保存されています。

「Build & Scrap」は、計画立案、予算要求、査定、執行、評価までの意思決定過程を一つのシステム上で管理することを目指しています。

主な役割

  • 予算要求書などのペーパーレス化
  • 予算編成業務の効率化
  • 事業計画と予算の一体管理
  • 事業の進捗と成果の可視化
  • 検討内容や意思決定履歴の保存
  • 担当者間の業務ノウハウの引き継ぎ
  • 政策と関連事業の関係整理
  • 政策目標に対する事業効果の確認

単に予算要求書を電子化するだけでなく、「どの政策に、どの事業が関連し、誰がどのような判断を行ったのか」を記録できる点が特徴です。


なぜ自治体AIの前にデータ整理が必要なのか

自治体で生成AIを導入しても、必要な情報が紙やExcel、複数のシステムに分散していれば、AIは十分な回答を生成できません。

AIが政策立案や予算編成を支援するためには、少なくとも次の情報が整理されている必要があります。

  • 自治体が解決すべき政策課題
  • 政策ごとの目標
  • 実施している事業
  • 各事業に配分された予算
  • 予算査定時の判断理由
  • 事業の実施状況
  • 行政評価と成果指標
  • 過去の意思決定や見直しの履歴

これらの情報が構造化されていれば、将来的にAIが過去の事業や判断を参照し、予算要求の確認、類似事業の検索、政策効果の比較などを支援できる可能性があります。

反対に、データが整理されていない状態でAIだけを導入しても、回答の根拠となる情報が不足し、期待した効果を得られない可能性があります。

今回の取り組みは、AIを先に導入するのではなく、自治体の経営情報と業務履歴を管理する基盤を先に整えるものと位置付けられます。


「自治体経営管理OS」が意味するもの

今回導入される「Build & Scrap」は、公式発表では自治体向けの経営管理システムと説明されています。

一般的なパソコンのOSと同じ意味ではありませんが、自治体運営に必要な予算、事業、評価、意思決定などの情報を一つの基盤で管理するという意味で、「自治体経営管理OS」と表現できます。

自治体には、住民情報、税務、福祉、教育、施設管理など、さまざまな業務システムがあります。

一方、経営管理システムは、個別の住民サービスを処理するシステムではなく、自治体全体の政策と予算、事業成果を横断的に把握するための基盤です。

システムの種類 主な対象
住民情報・税務・福祉システム 住民ごとの行政手続きやサービス
文書管理・グループウェア 庁内文書や職員間の情報共有
経営管理システム 政策、事業、予算、執行、評価、意思決定
将来の行政特化型AI 蓄積された業務情報を利用した判断・実務支援

政策と予算を一体的に管理できれば、重複する事業の発見や、効果の低い事業の見直しにも利用できる可能性があります。


職員不足に対してAIとDXで対応

ソフトバンクとWiseVineは、自治体職員の担い手不足を提携の背景として挙げています。

公式発表では、2045年に自治体職員の充足率が78%程度まで低下するとの推計が紹介されています。

人口減少が進む一方、自治体が担当する業務は減るとは限りません。

高齢化への対応、公共施設の維持、災害対策、地域交通、子育て支援、デジタル化など、行政に求められる業務は複雑になっています。

職員数が限られるなかで行政サービスを維持するには、書類の転記や集計、類似資料の検索、定型的な確認作業などを効率化し、職員が政策判断や住民対応に時間を使える環境を整える必要があります。

経営管理システムによる効率化が期待される業務

  • 各部署から提出される予算要求の集約
  • 過去の予算や査定結果の検索
  • 事業計画と予算額の照合
  • 類似事業や重複事業の確認
  • 行政評価資料の作成
  • 担当者変更時の業務引き継ぎ
  • 政策目標と事業成果の比較
  • 議会や庁内会議に使用する資料の準備

こうした業務情報を蓄積することが、将来的なAI活用の前提になります。


将来は行政分野に特化したAIを構築

ソフトバンクとWiseVineは、「Build & Scrap」の提供を通じて自治体業務のノウハウを蓄積し、将来的に行政分野へ特化したAIの構築を目指しています。

構想では、職員の業務を支援するだけでなく、自治体業務を自律的に遂行するAIも視野に入れています。

ただし、現時点で行政特化型AIの提供開始時期、機能、利用料金、対象業務などが確定したわけではありません。

今回確定しているのは、経営管理システムの提供と、将来的なAI構築を目指すという方針です。

将来の活用例としては、次のような機能が考えられます。

  • 過去の予算査定や事業評価の検索
  • 予算要求書の不足項目の確認
  • 類似事業や重複事業の抽出
  • 政策目標に対する事業効果の比較
  • 行政評価資料の作成支援
  • 担当者の引き継ぎ支援
  • 事業見直し案の提示

これらは公式発表で個別機能として確定しているものではなく、経営管理データをAIへ活用する場合に想定される利用例です。


自治体データの利用にはルール整備が必要

自治体の予算や事業に関する情報には、公開情報だけでなく、検討段階の資料や内部の意思決定記録が含まれる場合があります。

行政特化型AIを構築する場合は、データを蓄積するだけでなく、安全な利用方法を定める必要があります。

今後確認が必要になる項目

  • どの自治体データをAIへ利用するのか
  • 自治体ごとのデータを分離して管理できるか
  • 入力情報をAIモデルの学習に利用するか
  • 職員ごとの閲覧権限を設定できるか
  • AIの回答根拠を確認できるか
  • 誤った提案を職員が確認する仕組みがあるか
  • データの保存場所と保存期間
  • 契約終了時のデータ移行と削除方法
  • インシデント発生時の対応体制

特に予算配分や政策判断は、住民生活や地域経済に影響します。

AIが提案を行う場合でも、最終的な意思決定と説明責任は自治体側に残ると考える必要があります。


5年間の無償提供で導入障壁は下がるのか

自治体が新しいシステムを導入する際には、予算の確保、仕様書の作成、データ移行、職員研修、既存システムとの調整などが必要です。

サービス利用料が5年間無償になれば、継続的な利用料に関する負担を抑えられるため、導入を検討する自治体は増える可能性があります。

一方、導入費用、サーバー利用料、運用・保守費用は自治体負担です。

実際の導入判断では、無償となる金額だけでなく、5年間の総費用を確認する必要があります。

  • 初期設定とデータ移行に必要な費用
  • サーバーやクラウド環境の利用料
  • 運用・保守費用
  • 職員研修に必要な時間と費用
  • 既存システムとの連携費用
  • 5年間の無償期間終了後の利用料金
  • 他社システムへ移行する場合のデータ出力方法

自治体は「5年間無償」という条件だけで判断せず、導入効果と総保有コストを比較することが重要です。


最大100自治体のデータ基盤が持つ意味

最大100自治体への導入が進めば、自治体ごとに異なる予算編成や事業管理の方法について、幅広い業務知識が蓄積される可能性があります。

人口規模、財政状況、産業構造、組織体制が異なる自治体で利用されれば、行政特化型AIを設計するための多様な事例を得られます。

ただし、自治体の内部情報をそのまま共同利用できるという意味ではありません。

自治体ごとの機密性やデータ利用条件を守りながら、共通する業務手順や知識をどのようにAIへ反映するのかが重要になります。

最大100自治体という導入規模は、単なる販売目標ではなく、行政AIの基盤を形成するための規模として見ることもできます。


自治体が導入前に確認すべきポイント

導入を検討する自治体は、システムの機能だけでなく、費用、データ、契約、運用体制を確認する必要があります。

  • 無償対象となるサービスの正確な範囲
  • 導入費用、サーバー利用料、保守費用の総額
  • 既存の財務会計システムとの役割分担
  • Excelや紙から移行するデータの範囲
  • 庁内でシステムを管理する担当部署
  • 職員研修と操作支援の内容
  • 個人情報や内部情報の管理方法
  • AI開発にデータを利用する場合の条件
  • 5年間の無償期間終了後の料金
  • 契約終了時のデータ返却と移行方法

予算編成は自治体全体に関係する業務です。財政担当部署だけでなく、各事業を担当する部署が継続的に利用できる設計になっているかも重要です。


自治体DXは「データをためる段階」から「判断に使う段階」へ

これまでの自治体DXでは、紙の申請書をオンライン化することや、個別業務をシステムへ移行することが中心でした。

今回の提携が示すのは、デジタル化した情報を政策判断や予算配分に利用する次の段階です。

予算、事業、評価、意思決定の履歴が一つの基盤に蓄積されれば、自治体は過去の事業を横断的に分析しやすくなります。

さらに、整理されたデータを行政特化型AIが参照できれば、職員の経験や知識を補完する仕組みへ発展する可能性があります。

自治体AIの成否を左右するのは、AIモデルの性能だけではありません。AIが参照する情報を、どのような形式で、どの程度正確に蓄積できるかが重要です。


まとめ

ソフトバンクとWiseVineは2026年9月15日、自治体職員の担い手不足への対応を目的とした戦略的提携を発表しました。

2027年度末までに経営管理システムなどの導入について公示した最大100自治体を対象に、「Build & Scrap」のサービス利用料を、利用開始から5年間無償で提供します。

ただし、導入費用、サーバー利用料、運用・保守費用は自治体負担です。

「Build & Scrap」は、自治体の計画立案、予算要求、査定、執行、評価、意思決定履歴を管理し、政策と事業成果を可視化する経営管理システムです。

両社は、このシステムを通じて自治体業務のノウハウを蓄積し、将来的には行政分野に特化したAIの構築を目指します。

現時点で行政特化型AIの提供が確定したわけではありませんが、自治体AIを導入する前段階として、分散した情報と業務履歴を整理する大規模な基盤整備が始まったと捉えられます。

自治体DXは、業務を電子化する段階から、蓄積したデータを政策判断や行政運営へ活用する段階へ移りつつあります。


English Summary

SoftBank Corp. and WiseVine announced a strategic partnership on September 15, 2026, to address workforce shortages and improve operational efficiency in Japanese local governments.

Up to 100 municipalities that publicly announce plans to introduce a management system by the end of fiscal 2027 will be eligible to use WiseVine’s “Build & Scrap” service without service subscription fees for five years from the start of use.

However, implementation costs, server fees, and operation and maintenance expenses will remain the responsibility of each municipality.

Build & Scrap manages municipal planning, budgeting, execution, evaluation and decision-making records. By organizing this information, the two companies aim to establish a data foundation for the future development of AI specialized in public administration.

The administrative AI system remains a future objective. Its launch date, functions and pricing have not yet been announced.


参考・出典

Digital Era Pioneerの最新情報をLINEで受け取る

AI・Web3・メタバース・自治体DXの注目ニュースを厳選してお届けします。

LINEで友だち追加

コメント

タイトルとURLをコピーしました