
バーチャル空間から「関係人口」を増やす――地方自治体の新しい観光戦略としてのメタバース活用(バーチャルみやざき事例)
観光のデジタル施策というと、これまでは写真・動画・Webサイトによる情報発信が中心でした。しかし近年、自治体のメタバース活用は「観光名所の再現」だけにとどまらず、地域課題の解決や、将来の来訪・移住・就業につながる関係人口の創出を狙う戦略へと進化しています。こうした流れを象徴する事例の一つが、宮崎県とクラスター社が取り組んだ「バーチャルみやざき」です。
本記事では、noteで公開されている事例紹介をもとに、「バーチャルみやざき」の構成と狙い、そして自治体が観光プロモーションをメタバースで行う際のメリットや設計ポイントを、実務目線で整理します。
「バーチャルみやざき」とは何か
「バーチャルみやざき」は、メタバース体験を入口として、参加者の「本物の宮崎へ行ってみたい」という観光意欲を喚起し、地域経済への好影響を生み出すモデルケースを目指して制作されたプロジェクトです。空間内には宮崎県を代表する観光地が精巧に再現され、主に4つのワールド(空間)で構成されています。
- 宮崎県庁本館:歴史ある建築美をバーチャルで再現。各ワールドへつながるエントランスとして機能。
- 鵜戸神宮:神門から洞窟に鎮座する本殿の雰囲気を体感。名物の神事体験をゲーム化。
- 高千穂峡:雄大な自然景観の再現に加え、名物体験をゲーム化して回遊を促進。
- Eバイクで巡る 県西エリア:県西の複数スポットを自転車で巡る体験。周遊の“動機づけ”を仕込んだ設計。
また本プロジェクトは、単なる観光地の再現に留まらず、各スポットの特徴的な体験をゲームとして実装することで、若い世代でも「楽しみながら」宮崎の魅力に触れられる“体験型の観光プロモーション”として設計されている点が特徴です。
メタバース観光のメリット:バーチャル空間を活用する3つの強み
事例記事では、バーチャル空間活用のメリットが3点に整理されています。自治体の観光プロモーションに当てはめると、次のような意味合いになります。
1)時間・場所の制約なく、グローバルに情報発信できる
現地に行くには移動費・時間・季節要因がつきものですが、メタバースなら遠方でも海外でも、ユーザーは好きなタイミングで体験できます。従来のPRでは接点が作りづらかった層へ、観光地の魅力を“体験として”届けられる点が大きな強みです。
2)潜在層に「情緒」で刺さる深い体験を提供できる
写真や動画は受動的な情報接触ですが、メタバースではアバターで歩き、探索し、ゲームに参加することで能動的な体験が生まれます。能動体験は「楽しい」「印象に残る」「好きになる」といった情緒的な反応を引き出しやすく、結果として「実際に行ってみたい」という来訪意欲の後押しにつながりやすい設計です。
3)デジタルからリアルへつなぐ“新しい経済導線”を作れる
バーチャル空間内での特産品購入(EC連携)や、ゲームクリア特典として現地店舗で使えるクーポンを提供するなど、オンライン体験をオフラインの観光・購買へ誘導する導線を作れる点も重要です。観光地PRが「見てもらう」で止まらず、「行動(来訪・購買)」へつながる設計が可能になります。
4つのワールドは何を“狙って”作られているのか
「バーチャルみやざき」は、単に名所を並べたのではなく、ワールドごとに役割を分けて“関係人口につながる体験”を組み立てています。
宮崎県庁本館:情報のハブ(入口・回遊の起点)
県庁空間は、各ワールドへのポータル(入口)を設け、観光情報や動画も掲載することで、現実の宮崎に関する情報収集もできる設計になっています。メタバース体験の入口から「調べる」行動へ自然に移行させる、いわばハブとして機能します。
鵜戸神宮:「現地ならでは」をゲーム化(運玉投げ)
鵜戸神宮ワールドでは、神事である「運玉投げ」をゲーム化し、5球で亀石に挑戦するスコアアタック形式を採用。家族や友人と交流しながら楽しめる設計で、単独視聴に留まりがちなデジタル観光を“コミュニケーションの場”へ引き上げています。
高千穂峡:景観+アクティビティ(ボート漕ぎをゲーム化)
高千穂峡では、景観の再現に加えてボート体験をレース形式のゲームとして実装。スコアポイントを集めながらゴールを目指す設計により、「もう一回やりたい」というリピート動機が生まれます。リピートは滞在時間と接触頻度を増やし、観光地への親近感を強める重要な要素です。
Eバイクで巡る県西エリア:周遊を“仕組み”で起こす
2026年1月に新設された県西エリアのワールドは、生駒高原(小林市)、関之尾滝(都城市)、六観音御池(えびの市)など複数スポットを再現し、自転車で巡る体験として提供。さらに、すべての観光地を巡るとアバターアクセサリーが手に入る仕掛けを入れ、県西エリア全体を回る“きっかけ”を設計しています。これは、現実の観光で重要な「周遊促進」をバーチャルでも再現した好例です。
自治体がメタバース観光施策を成功させるための設計ポイント
同じ「メタバース観光」でも、作り方次第で成果は大きく変わります。事例から読み取れる、実務上の重要ポイントを整理します。
(1)“見せる”より“やらせる”:体験の設計が中心
名所の3D再現は入口に過ぎません。運玉投げやボートのように、その土地らしい体験をゲーム化して「参加したくなる」設計にすると、滞在が伸び、記憶に残り、SNS共有も起こりやすくなります。
(2)回遊の動機づけ:ポータル、収集要素、報酬設計
複数スポットを見てもらうには、回遊の理由が必要です。ワールド間の移動導線(ポータル)を分かりやすくするだけでなく、コンプリート特典のような“報酬”を用意すると、自然に周遊が生まれます。
(3)リアルにつなげる導線:観光サイト・EC・イベント連携
メタバース体験は「面白かった」で終わると施策価値が限定的になります。観光公式サイトへのリンク、特産品EC、現地クーポン、フォトコンテストなどを組み合わせ、現実の行動(訪問・購買・再訪)につなげる設計が成果を左右します。
まとめ:関係人口の入口としての「体験型メタバース」
「バーチャルみやざき」の事例は、メタバースを“観光地の再現”で終わらせず、体験を通じて感情を動かし、周遊を促し、さらに現実の観光行動へつなげる――という一連の設計を示しています。自治体にとって、関係人口を増やす取り組みは短期で成果が見えにくい一方、若年層を含む潜在層と接点を作れるチャネルは限られます。その点で、体験型メタバースは「いつでも入り口になれる観光施策」として、今後さらに存在感を増していく可能性があります。


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